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 これでは、どんな見どころに行ったらいいのか、何を食べて良いのかもわからない。でも、心配ない。注意書きにはこうある。「平壌の空港で2人の北朝鮮人ガイドが待っています。ロシア語が非常に上手です。ガイドが全旅程に同行します。ガイドのサービスを拒否することはできません」。ロシア人観光客は、中国や韓国からの観光客と異なり、ほとんど朝鮮語を話せない。北朝鮮当局にとっても、勝手に市民と接触して「余計なこと」を聞いたり、教えたりするリスクは低いが、念には念を入れて統制しようということなのだろう。

「歩き方ですぐわかる」

 注意書きには別の記述もある。「外国人観光客は移動の自由がありません。ガイドなしでホテルを離れることは、決してお勧めしません」。私も2006年7月に平壌の高麗ホテルに宿泊したことがある。数百メートル離れた平壌駅まで散歩したいと頼むと、案内員がやはり同行した。国家安全保衛部(現国家保衛省、秘密警察)出身の脱北者によれば、北朝鮮市民は見慣れない人物が街を歩いているのを見かけた場合、必ず、近くの分駐所(交番)に報告する義務を負っている。脱北者は「同じアジア系でも、服装や所持品、歩き方で外部の人間かどうかはすぐわかる」と話す。

金日成主席の70歳の誕生日を記念してつくられた「主体思想塔」(イリヤ・ボスクレセンスキー氏提供)

 おとなしく、ガイドに従って観光するしかない。ボストーク・イントゥールが募集している5月の北朝鮮観光の旅程をみると、ほぼすべて政治的なモニュメントで占められている。金日成主席の70歳の誕生日を記念してつくられた「主体思想塔」、金日成主席と金正日総書記の銅像が立つ「万寿台の丘」、「米韓の侵略に勝利した」という北朝鮮独自の解釈で朝鮮戦争を振り返る「祖国解放戦争勝利記念館」などなど、政治宣伝でお腹がいっぱいになる行程だ。

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 地下鉄見学は少し楽しそうだが、「有事の防空壕代わり」「各車両に掲げられた金日成主席と金正日総書記の肖像画」など政治の匂いからは逃れられない。4泊5日の行程で、純粋な観光は妙香山のトレッキングくらいで、「その土地の人々の暮らしぶりを知る」という旅行の醍醐味は味わえそうもない。

金日成主席と金正日総書記の銅像が立つ「万寿台の丘」(イリヤ・ボスクレセンスキー氏提供)

「食べ物の質は…」

 食事はどうだろうか。注意書きはツアー客を安心させるような文句が並ぶ。「食べ物の質はほぼ許容範囲です。食事の基本は伝統的な韓国料理になります。ビビンバ、平壌風冷麺、プルコギ、キムチ、イカ・タコ料理など」。確かに、1990年代に大量の餓死者を出した苦難の行軍時代に比べれば、食事状況はかなり改善している。高額のツアー料金(4~5月のツアーの場合、4泊5日で750ドル=約11万2000円=)を支払っている以上、それほど食事には不自由しないかもしれない。