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「ギリシャ悲劇のようだと思った」プロレスファンの監督が“フォン・エリック一家”の実話を映画化した理由

映画『アイアンクロー』ショーン・ダーキン監督インタビュー

2024/04/04

source : 週刊文春CINEMA 2024春号

genre : エンタメ, 映画, 国際, スポーツ

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「ザックはミュージカル出身だし、ジェレミーも過去にダンスをやっていた。レスリングのシーンはコレオグラフィーをこなすようなものでもあるから、そういった下地はプラスになる。それに僕が『やりたいか』と聞いたら、彼らは『やる』と言ったんだよ。誰もが自分に役が務まると信じていた。無理だと思ったら引き受けないだろう。

兄弟レスラーの筆頭としてリングでスポットライトを浴びる次男ケビン。俳優陣の鍛え抜かれた肉体は見事だが、80年代のプロレスのディテールも正確に再現されている ©2023 House Claw Rights LLC; Claw Film LLC; British Broadcasting Corporation. All Rights Reserved.


 さらに僕たちには、元レスラーのチャボ・ゲレロ・ジュニアが、コーチ兼ファイトコーディネーターとしてついてくれていた。メインの俳優たちは、みんな彼から指導を受けている」

 とは言え試合の描写は、役者にとってもダーキンにとっても、最も難しいシーンとなった。ダーキンは試合を最初から最後まで長いテイクで撮影し、役者はそれを複数回やらなければならなかったのだ。

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「試合のシーンを良いものにすることは大事だったが、僕らに与えられた撮影期間はあまりない。だから、どの動きも無駄にできなかった。今回、一番苦労したのはそこだったよ。だがその分、見返りも大きかった」

最初から映画を応援してくれた次男ケビン

 エフロンが実在のケビン・フォン・エリックに会ったのは、映画が完成してから。本人があまり映画にかかわらないようにしたのは、ダーキンが意図したことだ。

「僕はあくまでファンのひとりとしてケビンに会いに行った。その時までに脚本は書き終えていたよ。ケビンや彼の家族とあまりお近づきになるのは避けたかった。彼らと個人的に親しくなることが、映画を作る上で必要な決断に影響を与えてはならないからね。でも僕は、どんな映画にしたいのかをケビンにたっぷり説明した。それには、完成作を見る前に心の準備をしてもらう意味もあった。

プロレスエリート一家として人気が高まった矢先、三男デビッド(ハリス・ディキンソン)が急死。これをきっかけに兄弟が次々と自殺を遂げ、ケビンだけが生き残ることになる ©2023 House Claw Rights LLC; Claw Film LLC; British Broadcasting Corporation. All Rights Reserved.

 嬉しいことに彼は映画を気に入ってくれた。ケビンは最初からこの作品を応援してくれていた。すばらしい人だよ。『何が起きても闘い続けなければならない』と彼は言う。とてもポジティブで、愛情にあふれる人だ。だから彼はひとりだけ生き延びられたのだろうと思う。きっと、愛が彼を引っ張ってくれたんだ」

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