本塁打王と2度目のMVPに輝き、プロスポーツ史上最高となる総額7億ドルで、ロサンゼルス・ドジャースに移籍した大谷翔平。名実ともに史上最高の野球選手は、どこまで進化を続けるのだろうか?

 ここでは、野球の母国・アメリカの記者たちが「大谷翔平」について語った『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(朝日新書)より一部を抜粋。

 アメリカの日刊紙『ロサンゼルス・タイムズ』のスポーツコラムニスト、ディラン・ヘルナンデス氏と、アメリカのスポーツ専門サイト『ジ・アスレチック』の記者、サム・ブラム氏、アメリカ在住の日本人ジャーナリスト・志村朋哉氏の3人が、大谷翔平の素顔について語った内容を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む

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大谷翔平 ©文藝春秋

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伝わりにくいニュアンス

トモヤ 大谷が通訳を使っていることで、アメリカ人の記者やコーチ、チームメイトとのミスコミュニケーションは起きていると思う?

ディラン (通訳の水原)一平はすごいと思う。メモも取らずにスラスラ訳すんだから。でも通訳を介することで、生じる誤解はあると思う。1つの例が前にも述べたように、21年にエンゼルス首脳陣が、「大谷の健康を守るために設けていた制限を取っ払う」と言った時のこと。大谷はそれを最終通告と受け取ったと思う。これで成績を残せないのであれば、二刀流は諦めろと。

 日本では、雇い主は従業員の面倒を見る「義務」があると感じている。「彼がうちを選んでくれたんだから」って。日本ハムは大谷に対して、「彼がうちに来ることを選んでくれたのだから、我々には彼にとっての最善を尽くす義務がある」と思っていた。でもエンゼルスでの大谷は、「3年間は待ってくれたけど、これで結果を残せなければおしまい」って感じたんじゃないかな。裏切られたとはハッキリ言ってないけど、行間を読めばそう受け取れる。

 大谷は礼儀正しくて話すのも上手だし、「何も問題はない」って思わせる物腰だから、僕らも忘れがちだけど、彼はとんでもなく負けず嫌いでもあるんだ。悪い人だというつもりはないけど、エリートアスリートはみんなある程度、「クソ野郎」なんだ。(23年4月1日のオークランド戦で)高校時代にライバルと言われた藤浪晋太郎と対決した時、満塁の場面で大谷が、史上最長なんじゃないかと思うような強烈なシングルを放った。しかも一塁上で踊って喜んでいた。同じ高校日本代表チームでプレーした仲間で、メジャーで成功しようと頑張る藤浪に対して、大谷は「ボコボコにしてやる」って感じだった。それが彼なんだ。でも、そういったニュアンスは伝わっていないと思う。