この「技術が低いほど良い」というコンセプトは、かねて私が他人に失敗作を見せてもらうのが趣味であったことから生まれた。当初は失敗作を集めた展示会を開こうとしていたが、いざ募集をかけてみると、人はわざわざ失敗作を保管しておかないため展示作品が集まらないことが分かった。そのため、初心者が失敗上等で無謀なロボット製作にチャレンジするというヘボコンのコンセプトが生まれた。
“隙だらけ”だからこそ、初心者に勇気を与えた
失敗作や、素人が作ったロボットのなにが面白いのか。私はその最大の魅力は、作り手の弱さが見えるところにあると思っている。
高品質なプロダクトには隙がない。一方でヘボいロボットは隙だらけだ。作品を見れば「ここの実装を妥協したな」とか「ここをこうしようとしてあきらめたな」というように、作り手の心の動きが読み取れる。作品を通して人柄が見える面白さがある。だから僕はこのイベントを説明するとき、よくこう言っている。「ロボコンは工学、ヘボコンは文学」であると。
ヘボコンは2014年に生まれた。するとこのコンセプトは非常にウケて、第1回のイベントの記録映像は同年の文化庁メディア芸術祭にて審査委員会推薦作品に選んでいただいた。それをきっかけに世界中のメディアで紹介された。
すると、意外なことが起きた。私としては冗談のつもりで始めたイベントだったのだが、世界中からメールが届き始めたのだ。「私にもヘボコンを開催させてほしい」「これほど初心者に勇気を与えるイベントはない」。
差出人の多くは、学校や科学館職員などの教育関係者であったり、あるいは市民工房やファブスペース等と呼ばれる地域住民向けの工房の運営者であった。彼らは日ごろからこどもたちや地域住民にいかに科学やエンジニアリングに興味をもってもらうか頭を悩ませていた。というのも、それらは一般人にとって「とっつきにくいもの」であり、「(自分たち以外の)くわしい誰かのもの」であったからだ。