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脚に当たると切断するしかない銃弾で平和的デモに攻撃も…ヨーロッパ人初の留学生への密着で体感する「ガザの現実」

『医学生 ガザへ行く』岡真理氏トークイベント誌上再録

source : 週刊文春CINEMA 2024夏号

genre : エンタメ, 映画

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ハマース、ファタハ、イスラエルの許可が必要なガザ入り

 彼ら一行がガザに滞在していたのは2018年から19年までの冬の4カ月。到着して、ガザ地区への入域許可を得るために3時間も待たされる様子が映されていました。

 どうしてそんなにかかるのか。3つの許可が必要だからです。ハマース、パレスチナ暫定自治政府のファタハ、イスラエル、この3つです。

 振り返りますと、06年にパレスチナの選挙でハマースが勝利しました。この選挙はEUの監視団も「近来まれに見る民主的な選挙だった」と評価しています。

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 ハマースが政権与党になったのですが、イスラエルやアメリカは「ハマースはテロ組織だ」として、政権として認めません。以降パレスチナは、ハマースがガザ地区を統治し、ヨルダン川西岸地区のファタハの自治政府と分裂状態になります。

到着直後の不安そうな表情 © 2021 Arpa Films

 イスラエルは07年にガザ地区を完全封鎖し、以降、幾度も攻撃を加えています。リッカルドがおもむいたのは18年ですから、この時点でガザの封鎖は11年以上続いていました。

一定時間給電したら一定時間停電

 封鎖されたガザ地区は、極端に物資が少ないです。イスラエルが物資の出入域を制限しているためです。

 しかし、今作の中で映るスーパーマーケットには、ちゃんと品物があるように見えますね。それは、リッカルドが接している人たちが、医学部の学生や弁護士になろうとしているような富裕層だからです。

 カメラは常に彼に密着しているので、彼に近くない人や場所は撮れません。

リッカルドに大学内を案内してくれたサアディと © 2021 Arpa Films

 それでも、街中を荷馬車が走っているところが映っていましたね。封鎖のせいでガソリンがないからです。彼がホームステイしている家も含め、夜になると停電していました。燃料がなくて発電出来ないから、一定時間給電したら一定時間停電するというサイクルにせざるを得ないためです。