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脚に当たると切断するしかない銃弾で平和的デモに攻撃も…ヨーロッパ人初の留学生への密着で体感する「ガザの現実」

『医学生 ガザへ行く』岡真理氏トークイベント誌上再録

source : 週刊文春CINEMA 2024夏号

genre : エンタメ, 映画

note

 大阪・十三(じゆうそう)にあるミニシアター、第七藝術劇場で、3月24日に行われた『医学生 ガザへ行く』上映後の岡真理さんによるトークイベントの模様を誌上再録する。

 岡さんは、ベストセラーとなった『ガザとは何か~パレスチナを知るための緊急講義』(大和書房)の著者で、これまでもパレスチナ問題について精力的に発信してきた専門家である。文中の様々なデータはイベント開催時点のものとなる。

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『医学生ガザへ行く』

INTRODUCTION & STORY

 イスラエルからの激しい攻撃にさらされ、「天井のない監獄」とも呼ばれるガザ地区。そんな環境で人々は一体どういう生活をしているのか? それを体感させてくれるドキュメンタリー。

 救急外科医になるという将来の夢のため、ガザ地区におもむいたイタリア人の医学生、リッカルド。ガザのイスラーム大学に着くと、ヨーロッパ人初の留学生として大歓迎を受け、メディアからの取材も多く受けることに。

 同じ医学生の友人もできるが、彼は自分の適性を疑い、いずれはこの地を去る自分と違い、出たくても出られない友人たちに対して罪悪感を抱くように。そんな中、研修で向かっていた病院に銃撃を受けた人々が運び込まれてくる。

 

STAFF & CAST

監督:チアラ・アヴェザニ、マッテオ・デルボ/脚本:チアラ・アヴェザニ/出演:リッカルド・コッラディ−ニ、サアディ・イェヒア・ナクハラ/2022年/スペイン/88分/配給:ユナイテッドピープル/現在公開中

救急救命医を志すイタリア人青年がガザ留学

 皆さん、ご覧になっていかがでしたでしょうか。ガザに対するイスラエルのジェノサイド攻撃、それはもはや21世紀のホロコーストと言ってもいいものです。今作では現地の様子が、そのまま映し出されていました。

 主人公のリッカルドは日本語タイトル通り、イタリア人の医学生です。ただ、映画の原題は『Erasmus in Gaza』、「ガザのエラスムス」です。

岡真理さん ©文藝春秋

 エラスムスとは、15~16世紀のオランダの神学者、哲学者、人文学者。『痴愚神礼讃』の著者として知られています。では、リッカルドをその学者と重ね合わせているのか…というと、「エラスムス・プログラム」というものがあるんです。

 正式名称が「EuRopean community Action Scheme  for the Mobility of Univer-sity Students」。この大文字のところをとってエラスムスと無理やり読ませているんですが(笑)、要はEUの大学生をあちこちに留学させ、交流を促進しようという、そういうプログラムです。

 リッカルドは救急外科医を志している青年なのですが、このプログラムで、ガザ地区を行き先として希望しました。

今作の「主人公」、イタリア人医学生リッカルド(右)と、ガザの医学生ジュマナ © 2021 Arpa Films

 そんな学生は初めてなので、ヨーロッパで報道されました。それを見た今作の監督、スペイン人2人が「映画にしたい」とリッカルドに連絡をとり、彼と一緒にガザにおもむいて、撮影してきたんです。