2023年10月7日、ハマス主導の越境奇襲攻撃に端を発し、イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への攻撃が激化した。今月7日には、イスラエル・ネタニヤフ首相がハマスが提案した休戦案を拒否。攻撃はまだ続いている。
ここでは、長年パレスチナ問題に関わって来た、早稲田大学文学学術院教授・京都大学名誉教授の岡真理さんが、攻撃激化の直後、10月20日と23日に行った講義の内容をまとめた『ガザとは何か~パレスチナを知るための緊急講義』(大和書房)より一部を抜粋して紹介。
10月7日の攻撃以降の話ばかりがメディアで取り上げられる中、それ以前のガザで起きていた、イスラエルによる“完全封鎖”とはどのようなもので、住民たちにどんな影響を与えてきたのか。現在進行形で続いている“人道危機”の実態を明らかにする。(全3回の2回目/最初から読む)
※記事化にあたり、文春オンライン編集部が本文に一部、必要な改変・注を施したほか、著者による注記を加えた。
◆◆◆
「封鎖」とはどういうことか
ガザが封鎖されていることはメディアでも語られますが、16年以上にわたる完全封鎖がどういうものか、そこに生きている人間にとっていったいどのような暴力なのか、ということはまったく報道されません。封鎖とはどういうものなのか、みなさん分かりますか。
難しいのは、戦争のような直接的暴力であれば、物理的な破壊を伴うので、その暴力性がすごく「分かりやすい」。爆撃された、建物がこんなに破壊された、人間がこれだけ死んだ、こんなにむごたらしく殺されたということが一目で分かる。
しかし、封鎖というのは構造的暴力です。実は戦争における直接的暴力と同じぐらい致命的な暴力なのですが、爆撃などの直接的暴力と違って、それによって直接、人が死ぬわけではありません。なので、その暴力性が単純には分からないんです。人間や物資の出入域、搬入・搬出が著しく制限されている、経済基盤が破壊され、失業や貧困、栄養失調が起きている……その一つ一つは、確かに辛いことではあるのだけれど、それが、人間を、このような越境攻撃にまで駆り立てるような暴力であるとは、なかなか分からない。
直接、人が死ぬわけではない、と言いましたが、ガザを出て、西岸やエジプトなどの病院に行って適切な治療を受けたら生き長らえることができた人が、イスラエルが出域を認めないためにガザにとどめ置かれて、出域許可が下りるのを待ちわびながらガザの病院で亡くなっています。亡くなった原因や心臓病やがんなど病気によるものかもしれないけれど、その実態は、封鎖で殺されているんです。だから、封鎖によって、人が死んでいないわけではありません。