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「体に悪いとわかっていても、汚染された水を飲むしかない」“世界最大の野外監獄”と呼ばれる、ガザが直面する本当の問題

『ガザとは何か~パレスチナを知るための緊急講義』より#2

2024/03/01
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ガザで起きていること

 汚水処理施設が稼働していないので、230万の人口の生活排水が、トイレの排水から何から何まで未浄化のまま大量に地中海に毎日毎日、この間ずっと排水され、海が汚染されています。渓谷流域の地下水も汚染されています。

 その結果、ガザの水道水は現在、97パーセントが飲料に不適です。ごくごくわずかの経済的に恵まれた人は、浄水用のフィルターやミネラルウォーターを買えるけれども、そうでない人、圧倒的多数の人々は、体に悪いとわかっていても、水を飲まなかったら死んでしまうので、汚染された水を飲むしかない。生きるための水がガザの人々の命を内側から蝕みます。そして、今、その水すら手に入らないという状況です。

※画像はイメージです ©AFLO

 こうしたことは今に始まったことではないんです。これまでずっと、ガザはそういう状況だったんです。ガザの人々にすごく病気が多いというのは、この汚染された水を飲料水にしている結果だと言われています(汚染された水で顔や体を洗うので、皮膚病や眼病も多いという報告もあります)。

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 さらに、経済基盤が破壊され、ガザの失業率は46パーセント、世界最高です。若者に至っては、ほぼ失業している。ガザの世帯の6割が満足に食事を摂れない、乳幼児の過半数が栄養失調です。お母さんのお腹にいる時から、母親自身が十分な栄養を摂れていないので、生まれた時から栄養失調です。

 食べるものもない。住民の8割が国連をはじめとする国際機関の人道援助に依存していますが、良質なタンパク質でカロリーを賄うことができないので、配給される安い小麦粉や油、砂糖を大量に摂取することによって、なんとか生命維持のためのカロリーを賄っています。

 そういう食生活が続いたらどうなるか。糖尿病、生活習慣病になります。だから今、糖尿病がガザの風土病になっています。

 電気もない。私が2014年にガザへ行った時は、1日のうち8時間から16時間が停電でした。写真を見ていただければわかるように、ガザの街は日本の都市と同じような近代的な都市なんです。高層ビルもあります。そういうところで電気がない、1日数時間しか電気が供給されない状況を想像してみてください。生活できないですよね。

攻撃で破壊される前のガザ・シティの街並み ©iStock.com

 近代医療は電気に依存しています。保育器や手術もそうです。人工透析は、必要な時間の半分しかできません。短期的に見ればなんとか持ちこたえているけれども、長期的に見たら明らかに寿命を縮めています。

 地中海式気候なので冬は雨が降ります。ちょっとでもまとまった雨が降ると、封鎖のせいで燃料がなく、排水ポンプが稼働しないので、ガザの低地部分は洪水になります。洪水はガザで毎冬、繰り返されています。「gaza flood」で画像検索してみてください。今年の冬の写真が出てくると思います。