2023年10月7日、ハマス主導の越境奇襲攻撃に端を発し、イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への攻撃が激化した。今月7日には、イスラエル・ネタニヤフ首相がハマスが提案した休戦案を拒否。攻撃はまだ続いている。
ここでは、長年パレスチナ問題に関わって来た、早稲田大学文学学術院教授・京都大学名誉教授の岡真理さんが、攻撃激化の直後、10月20日と23日に行った講義の内容をまとめた『ガザとは何か~パレスチナを知るための緊急講義』(大和書房)より一部を抜粋して紹介する。
報道では「暴力の連鎖」という言葉を使って説明されることもあるが、本当は今、ガザで何が起きているのか。そして、ずっと何が起こってきたのか。(全3回の1回目/続きを読む)
※記事化にあたり、文春オンライン編集部が本文に一部、必要な改変・注を施したほか、著者による注記を加えた。
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毎年行われるイスラエルのヘイトデモ
まず、動画を一つご覧ください。積極的に見たい内容のものではありませんが。
"Death to Arabs"
— +972 Magazine (@972mag) May 30, 2022
"May your village burn"
"Shuafat is on fire"
"Mohammed is dead"
"Shireen is a whore"
This is only a small selection of the racist and violent chanting that took place at yesterday's Flag March in Jerusalem.
Video by @OrenZiv_ pic.twitter.com/MLZFGNibMP
これは「フラッグマーチ(旗の行進)」と呼ばれる、イスラエルの右翼によるデモンストレーションです。イスラエルは1967年に軍事占領した東エルサレムを1980年、国際法に違反し併合して、首都化宣言を行いました。そのエルサレムで、毎年、イスラエルが「独立記念日」と呼ぶ日に大々的に行われるイベントです。「アラブ人に死を」、「お前の村を燃やしてやるぞ」、などとヘブライ語で叫んでいます。
「アラブ人」とはパレスチナ人のことです。このデモが行われている東エルサレムはパレスチナ人の街です。パレスチナ人も大勢、暮らしています。また、イスラエル国家の人口の二割もパレスチナ人です。その中で、アラブ人に死を、と言っています。
「シュアファートは燃えている」。シュアファートとは、エルサレム郊外にあるパレスチナ難民キャンプです。1948年に故郷を占領されて、民族浄化され、難民となってエルサレムにやってきたパレスチナ人が暮らしています。
「ムハンマドは死んだ」。イスラームの預言者、ムハンマドのことですね。
「シリーンは売春婦だ」。シリーンとは、シリーン・アブー=アクレさんという、パレスチナ系アメリカ人のジャーナリストで、昨年(2022年)、ヨルダン川西岸地区を取材中にイスラエル兵に狙撃され、射殺された方です。イスラエル軍は当初、交戦中にパレスチナ側の戦闘員が発砲した銃弾が当たったのだと主張しましたが、当時、戦闘は行われておらず、のちにイスラエルは自軍兵士が射殺したことを認めています。