2023年10月7日、イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への攻撃激化のきっかけになった、ハマス主導の越境奇襲攻撃が起きた。これについてその後、日本で目にする報道や、イスラエル軍、あるいはイスラエル政府が発表している内容と、食い違うような証言が出てきていることを知っているだろうか。
ここでは、長年パレスチナ問題に関わって来た、早稲田大学文学学術院教授・京都大学名誉教授の岡真理さんが、攻撃激化の直後、10月20日と23日に行った講義の内容をまとめた『ガザとは何か~パレスチナを知るための緊急講義』(大和書房)より一部を抜粋して紹介する。(全3回の3回目/最初から読む)
※記事化にあたり、文春オンライン編集部が本文に一部、必要な改変・注を施したほか、著者による注記を加えた。
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西岸で起きていること
ガザと西岸地区は、1967年にイスラエルに軍事占領されて以来、撤退せよという安保理決議にもかかわらず、今日までずっとイスラエルの軍事占領下にあります。安保理決議違反の占領は、あと4年で60年を迎えようとしています(編注:2023年時点)。
想像してみてください。
60歳以下の人たちは、生まれた時、あるいは物心つく以前からずっと、イスラエルの軍事占領下で、イスラエル兵から銃口を突きつけられながら、人間としての全き自由も平等な権利も奪われたまま生きてきたのです。1990年8月、イラクに侵攻され、占領されたクウェートが、その7ヶ月後には解放されていたのとは、なんという違いでしょうか。
そして、先ほども述べたように、ガザでは2007年から国際法違反の完全封鎖が続き、経済基盤が破壊されたガザに、16年以上にわたって閉じ込められ、6割以上の者たちが満足に食事も摂れない状況に置かれ、8割の世帯が国連をはじめとする支援団体の配給で辛うじて食いつないでいるという状況です。
ガザの人道危機は、10月7日のハマース主導の奇襲攻撃によって突然生まれたわけではないのです。そのずっと前から、イスラエルの政治的意図によって、つまり、ガザのパレスチナ人を、今日を食いつなぐのがやっとというような、そういう状況にとどめ置くことで、「占領からの解放」「主権を持ったパレスチナ独立国家」などといった政治的な主張をさせまいとする、そのために、ガザの人たちは人為的に創られた人道危機の状態に置かれていたのです。
2012年、国連は、ガザの封鎖がこのまま続けば、2020年にはガザは人間が生きることのできない状態になると警告していました。世界は、それをずっと関心の埒外に捨ておいてきました。