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「俺が手を回しておいたから」

 再生された20分以上の動画では、タクシーの後部座席に座った木原氏が、X子の手を握って言葉を投げかけていた。

「大丈夫だよ。俺が何とかするから」

「……」

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「俺が手を回しておいたから心配すんな。刑事の話には乗るなよ。これは絶対言っちゃダメだぞ。それは罠なんだから」

 この会話を見たとき、俺は「だよな」と思った。

 なぜなら、もうX子は簡単には喋らないと思ったからだ。調べに対して「これを言ってはダメだ」と手を回されてしまえば、かなり厳しい状況になるからだ。

 さらに頭を抱えたのは、木原氏が続けたこんな言葉だった。

「国会が始まれば捜査なんて終わる。刑事の問いかけには黙っておけ」

 するとX子が「刑事さんが(木原氏のことを)『東大出のボンボンは脇が甘い』とか言ってたよ」と返事をした。木原氏はこう気色ばんだ。

「そんなもん、クビとって飛ばしてやる!」

 この映像を見ながら、俺は思わず「おお、やってみろ。ボンボン」と吐き捨てたい気持ちに駆られていた。

X子さんの取調官を務めた佐藤誠氏 ©文藝春秋

大きな違和感

 そうは言っても、国会が閉会する12月10日になれば、捜査が再開されるだろうと俺は考えていた。ところが、その目論見は外れることになった。

 国会が始まる直前の10月下旬のことだ。

 俺は当時の管理官から、はっきりとこう告げられたのだ。

「明日で取調べは終わりだ」

 12年前の事件で物証が乏しいことは最初から分かっていた。だが、X子の調べが佳境を迎え、これから供述を揃えて証拠を探そうという矢先に捜査の中止が告げられたことには、大きな違和感が残った。

 俺は捜査一課で100件近くの調べをやってきた。これだけ流れができていたのにもかかわらず、捜査が中止になるなんて経験は初めてだった。

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。