7月7日の選挙結果では、国民の極右への危機感が残っていたことで、極右政権の誕生とはならなかった。だが、与党連合はさらに82議席減らし、その分極右とその連携の右翼勢力と左翼連合が伸びて、三つ巴で動きが取れなくなってしまった。政治の混乱は深まり、ますますオリンピックどころではなくなってしまった。
セーヌ川での予行演習は…
6月24日に1万人の選手をのせる94隻の舟が一堂に会して行われる予定だった開会式の予行演習は中止になった。すでに何度か中止されている。理由は水の流れが速いから。17日には半数の舟だけの予行演習はできたがその時には、水量は1秒間に298㎥だった。だが中止が決定された21日には516㎥、23日には666㎥になった。通常の夏は100から150㎥である。セーヌ川はいま泥水だから、上流の雨の影響だろう。
6月23日に遊泳すると言っていたパリのイダルゴ市長は、選挙を理由にのばしていた。だが、実際には、泳げる水質ではなかったのだ。この6月初めからパリ市は水質と水流量発表をはじめたが、6月23日は大腸菌が100mlあたり3000個を超えていた。トライアスロン競技の開催の最低基準は1000個以下だ。
晴天で水質も改善し、市長は7月17日にセーヌ川に入った。
ちょうど7月14、15日に聖火がパリを巡回したタイミングで大いに盛り上がった。再来年の選挙に不出馬を表明して、このオリンピックを自分のレガシーにしようとしているイダルゴ市長は、世界中の報道陣と護岸壁上に鈴なりになった見物人を前に得意満面だった。
懸念されるテロ対策
本来ならばアタル内閣は総辞職した時点で、大統領が新しい首相を指名するのだが、極右や左翼連合を指名することをマクロン大統領は拒否し、かといって伝統右派と協力しても過半数にはほど遠いため、与党連合から出すわけにもいかず、現在は大統領が辞表を預かる形での日常業務だけを淡々とおこなう「辞職内閣」が国政を運営している。
そこで心配になるのが、もともとオリンピックの懸念の第1位に挙げられていたテロ対策だ。今のところは、7月15日夜、西駅で警戒中の軍人が、18日にはシャンゼリゼ近くで警官が、いずれも犯人にナイフで切り付けられた(15日の事件で、容疑者は精神科病院に収容されたと発表があり、18日の事件では、犯人の男は別の警官に腹部を撃たれ搬送先の病院で死亡した)。
このような事件はまだまだ起こる可能性があるし、組織的には弱ってきているとはいっても、個人でネットを通じて過激テロ思想にハマってしまった人が増えている。6月初め、ノルマンディ上陸作戦80周年の直前には、パリ・ドゴール空港近くのホテルで、ドンバス出身のロシア語話者のウクライナ人が手製爆弾を誤って爆発させるという事件も起きた。