4年に一度のスポーツの祭典、オリンピック・パラリンピック。2021年の東京に続きホストとなったフランスの首都パリでは、開催に向けた準備のラストスパート真っ只中だ。「環境に優しい五輪」をモットーに、エッフェル塔やグラン・パレなど世界に誇る文化遺産を会場として活用、その舞台設定の美しさからも注目を集めている。

©Paylessimagesイメージマート

 しかし現地の感覚は、「歓迎ムード一色」とは言い難い。エマニュエル・マクロン大統領やパリのアンヌ・イダルゴ市長のPR行動には盛大な反発が起こり、今年5月にフランス全土の1000人を対象にしたアンケートでは、回答者の半数近くが開催に「無関心」と答えている。 その背景は、コロナ禍で賛否両論が巻き起こった東京オリンピックとはまた違ったものだ。

 五輪を控えた花の都パリの温度感を、現地在住ライターが綴る。

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譲れない“バカンス”と重なった開催

 パリオリンピックが開催される7月下旬から8月中旬は、フランスでは「夏のバカンス」のシーズンだ。国中が夏休みモードでペースを落とし、ビジネスや行政も例外なく停滞する。「これを楽しみに1年間働く」「無かったら間違いなく病気になる」と言われるくらい、この国の人々にとって重要なひとときである。

 多くの人は数ヶ月分の貯金をはたき、海や山などの自然の中に数週間旅立って、自由な余暇の時間を楽しむ。冠婚葬祭ですら、この時期を外して計画されるのが通例だ。

 特に首都パリの住人にとっては、狭く慌ただしく混み合った街での日常を離れてリフレッシュする貴重な機会。その最盛期に地元で五輪が開催されても、自分のバカンスの方を大切に考えるのは、一般的な感覚と言える。むしろその期間に自宅を民泊アプリで貸し出して、今年のバカンス予算の足しにしよう! と目論む人も多く、頻繁にニュースになっている。

 もちろん飲食業などでは、1000万人以上の来場者が見込まれるイベントを“絶好の稼ぎ時”と奮って営業する店が多い。しかしそれも全員ではない。

「オリンピック期間? もちろんバカンスだよ! そんな大変な時に仕事するわけないでしょう」

 今年利用したタクシーやハイヤーの運転手たちは、ニヤリと笑ってそう言う人々ばかりだった。