主催者側もその国民性を熟知しており、この夏に五輪以外の用事でパリにいるのは控えてね、と言わんばかりの対策が散見される。たとえば開会式直前の7月18日から26日までは、中心地のセーヌ河岸周辺で歩行者向けにも交通規制が課され、地域住人や通勤者にも通行許可証が求められる。コロナ禍のロックダウンを思わせる厳しさには、地元民もやれやれと肩をすくめている。
パリ市内や近接する地にオフィスを構える企業は、開催期間中にリモートワークを推奨。フランス交通省の特設ページでは、雇用主・従業員側に向けた「リモートワーク成功のコツ」「リモートワークが生産性に与える好影響」などの情報が並ぶ。
大企業の中には、期間中にオフィスを閉鎖し、有給休暇の消化を半強制するところも。しかしこの時期は例年バカンスで、もともと社会活動が停滞するので、この点でのオリパラの影響はあまり出ないだろうとの見込みだ。中心地ではむしろ地元パリジャンの「一時退出」が過ぎ、従来型の観光客が制限の多い五輪期間を避ける現象も重なって、閑古鳥状態を嘆く飲食店の声も聞かれている。
「パリはフランスではない」、地方の平熱な視線
オリンピックへの関心の低さは、フランスという国の中でのパリの地位にも関係している。首都パリは五輪がなくとも世界有数の観光都市で、夏季だけで740万人の外国人が訪れるが、フランス国内の他の地域からは向けられるのは、必ずしも好意だけではない。
フランスの人々は郷土色の強い地元への愛着が強く、多民族・多文化が魅力の一つである首都に対して「パリはフランスではない Paris n'est pas la France.」という表現を使ったりもする。
前述のバカンスで、フランスの北部からリゾート地に南下する途上にパリがあっても、「せっかくだから寄って行こう」とはならず、むしろ避けて通られる。人の多さや環境汚染、治安問題が引き合いに出され、「パリには行きたくない」「なぜパリに住んでいるの?」と言われることは、外国人の筆者でも多々あるのだ。そこでパリを好んで住む理由を伝えても「あなたが良ければいいんじゃない」と流され、次いで「ウチの地元の方がこんなにいい」とお国自慢を繰り出される。