その国民性を前提に地方の関心を喚起するためか、今回のオリンピック・パラリンピックは、パリ以外の都市でも競技が組まれている。地中海岸のフランス第二の都市マルセイユではセイリング他いくつかの競技会場を設け、サッカーはボルドーやリヨンなど、人気のサッカークラブを持つ6都市でも試合がある。開催中はフランス全土62県・180ヶ所で、飲食スポットやライブストリーミングを提供する特設スペース「クラブ2024」が展開される。
地方とパリの関係を示すのに面白い例は、大手スーパーマーケットチェーン「カルフール」による五輪関連グッズの宣伝だ。「今回ばかりは全フランスでパリを応援!」と、パリの存在感を絶妙に表すキャッチコピーを用い、パリ圏以外の各地方を舞台にポスターを作成。それをパリのメトロに掲載し、乗客にシニカルな笑いを呼んだ。
誰もが認める巨大スポーツイベントの「政治性」
パリオリンピック・パラリンピックに対する独特の温度感の背景には、フランスの人々の政治意識の高さもあるように筆者は思う。世界最大のスポーツの祭典を誰がどのように行うのか、それが自分たちの生活にどんな影響を及ぼすか。スポーツを好まない人も、フランスではそこに関心を寄せる。そしてこのビッグイベントに潜む政治性にも、しかと目を光らせている。
今回の五輪は「環境への配慮」が前面に出され、既存のモニュメントや公園、競技場を活用した会場がポイントになっている。その一つであるセーヌ川では、水質の良さを示すため、パリのイダルゴ市長とマクロン大統領が実際に泳いでみせるPR作戦が計画された。
オリパラを政治利用するならばこちらもと、イダルゴ市政・マクロン国政に不満を持つ人々は、水泳が予定された6月23日に向けてセーヌ川上流で排泄し一時的な水質汚染を狙う「オペレーション・カッカ(うんち)」を計画。そのイベント自体が6月の電撃下院解散・総選挙騒ぎでうやむやになったのも、この件の政治性を表している。イダルゴ市長は五輪開幕9日前の7月17日にセーヌ遊泳の約束を果たしたが、マクロン大統領は開催が前日に迫った今もまだ「様子見」だ。
報道では、社会的に立場の弱い人々が五輪のための政治判断で不便を被る事案が取り沙汰された。たとえば昨年末に新聞を賑わせたのは、大学の学生寮の徴用について。開催中に会場保安スタッフの宿泊施設として活用するため、パリ圏の学生寮の3000室をスポーツ省が徴収、通常8月31日まで許可されている学生の滞在を6月30日に短縮すると決定したのだ。
退去する学生には100ユーロと五輪チケット2枚の給付が交換条件とされたが、学生組合は反発して提訴。パリ行政裁判所は一旦徴用の差し止め判決を下したものの、事案は憲法院の預かりとなり、学生の転居支援をより強化する形で結局、徴用が決まっている。
五輪開催のための政治判断は路上生活者にも及び、パリから地方の支援施設に半強制的に送る対策は「社会的清掃」だとして、支援団体を中心に批判の声が上がった。