オリンピック中の特別手当をめぐるスト
テロと並んで危惧されていたのが、冒頭で紹介したストだ。
オリンピック中の特別手当を巡って、5月頃オリンピック期間中もスト期間として各分野の各組合から届け出があった。実際にストも行われた。オリンピック中にストをやられてはたまらないという大統領や政府の圧力もあって、結局、次のような金額で妥協した。
・RATP(パリ交通公団)平均1000ユーロ、バス電車の運転手は1600~2500ユーロ
・空港管制官 月額給与の4.68%まで
・警官 五輪競技のある県1600ユーロ、イルドフランス地方(パリ首都圏)1900ユーロ
・清掃員 600~1900ユーロ
・病院 800ユーロ(最下級職員)~2500ユーロ(医師)
・国鉄は、1日95ユーロで1900ユーロを上限とする。このほか子供を預ける場合1日50ユーロ加算
(5月21日「ル・パリジャン」紙、1ユーロは約170円)
だが、完全に終わったわけではない。空港の職員は7月16日にようやく妥結したが、その協定に署名しなかった組合(FO、11%が加盟)は、開会式当日の26日にストライキを通告し、スポーツクライミングの会場やプレスセンターなどを結ぶ郊外の国鉄・民間の共同子会社運営の路面電車では、40ユーロの回答しかないとして、25日からストに入ると予告した。
「オリンピック中の政治休戦」の呼びかけ
7月22日、続々と各国の選手団が到着するパリ北郊外サンドニの選手村を訪れたマクロン大統領が「オリンピック中の政治休戦」を呼びかけた。今はもっぱら、混乱を極めるフランス政界を念頭に言った言葉だ。「どの口が言うか」といまさらながら呆れられている。
23日の夜には、マクロン大統領は、開会式の会場になるトロカデロ広場の博物館の屋上で国会選挙以来はじめてのインタビューを受けた。自分は正しかった、政治が混乱しているとしたら議員たちが努力しないからだと、予想されていた通りのスーパーエゴ(超自己中心)ぶりを発揮。「まるで別の世界に住んでいるようですね」と、いつもは冷静中立なベテランインタビュアーが極めて珍しくあきれ顔をした。
大統領の後ろにはエッフェル塔に掲げられた五輪。そして、開会式の設備が整ったセーヌ川。
翌朝の「ル・パリジャン」紙の1面は「私たちのメダルのチャンス」だった。いよいよオリンピックが始まる。
写真=広岡裕児