自然豊かな環境を求めて、柴田修兵さんと三宅優子さん夫妻が大阪から鳥取県湯梨浜町へと移り住んだのは20年のことだ。

「友人が運営しているゲストハウス“たみ”を訪ねたときに、豊かな自然の近くにありながら、ユニークな書店や美味しいカフェがあって、文化的な営みが大切にされているところに惹かれました」と、三宅さん。

 移住を決意したものの、仕事は決めていなかったという。柴田さんが述懐する。

ADVERTISEMENT

「人が集まれる場所をつくりたいという漠然とした思いはありました」

 三宅さんはある提案をした。

「この街にたどり着く前にいくつかの町を巡りましたが、地方にはアートハウス系の映画を上映する映画館が少ないことに気づきました。大阪ではふたりで映画館に出かけて、鑑賞後に感想を話すのが楽しみだったので、何か新しいことを始めるなら、映画館がいいんじゃない? と」

専業で映画館を運営することができるワケ

 幸いにも柴田さんには、シネ・ヌーヴォや第七藝術劇場といった大阪でミニシアターを運営する知人がいた。

「彼らから、小規模な上映空間であれば、高額な機材を揃えなくても十分な上映環境を整えることができると教えてもらい、それならできるかもと見通しがつきました」

 幸運はつづく。廃校になった小学校の3階をワンフロア借りられることになり、とんとん拍子で開業に漕ぎ着けた。

「人口の少ない地域で、映画館だけで食べていくのは難しいだろうと思っていましたが、予想以上にたくさんのお客様が通ってくださり、専業でやっていけています」

 1カ月に1作品を上映し、さらに営業日は月の半分程度。老婆心ながら経営面が気になるが、柴田さんは泰然自若だ。

「上映日以外は、次の上映作を吟味したり、関連する映画を観たり書籍を読んだりしています。上映作品を増やすより、一作品を丁寧に紹介していくほうがお客様が映画を好きになってくれ、映画館に通ってくれると感じています」

 自然と映画に囲まれた安居楽業の日々。羨ましい。

京都在住の建築家が発案した、物流パレットにクッション材を重ねた座席は寝そべってもOK。 ©芦部聡
おふたりが立つロビーは元図工準備室。 ©芦部聡
音楽室だった部屋はトークショーのときに使用する。 ©芦部聡
©芦部聡

《映画の後で》1階のカフェ「リブラリエ」はサンドイッチが絶品だとか。本好きなら徒歩圏内にあるブックカフェ「汽水空港」にもぜひ寄り道を。 

INFORMATIONアイコン

jig theater
鳥取県湯梨浜町東伯郡湯梨浜町松崎619 旧桜小学校3階
Mail:mail@jigtheater.com
HP:jigtheater.com
座席数:約25席
オープン:2021年7月