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「桂田社長は全て自分で持って行っちゃう人」

「地元の漁師さんたちが事務所に遊びに来た時に、おすそ分けをいただくんです。前の社長は『みんなで食うべ!』とスタッフに振る舞ってくれましたが、桂田社長は全て自分で持って行っちゃう人。そこで、僕が辞めるまでは、僕個人がもらったものをみんなに振る舞うようにしていました」

 スタッフの待遇が悪化の一途をたどった背景には、桂田氏の“散財”があった。同社が斜里町の世界自然遺産地域に「ホテル地の涯」をリブランドオープンさせたのは、2018年6月のこと。「しれとこ村グループ」は知床で4館のホテルを運営する一大ホテルチェーンとなっていく。

 だが実際には、グループの経営状況は火の車で、遊覧船事業の収益を旅館業で生じた債務の返済に回す“自転車操業”に陥っていたという。

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「スタッフに対するしわ寄せは、かなりあったと思います。もちろん社長のアイディアで新たな事業をやるのは良いんですが、それにも優先順位というものがありますよね。遊覧船のシーズン中は、1日100万円稼ぐこともあるんですよ。その資金をもとに『古い遊覧船も新しくしたい』と社長に意見したこともありましたが……。社長本人は浮ついている様子で、自分のやりたいことを優先している印象を受けました」

多角化に失敗し内実は火の車だったという桂田氏

 船長の経験がある前社長とは対照的に、桂田氏は船や海に関する知見を持ちあわせていなかったという。

「船に付ける新しいバッテリーを買う時に、桂田社長から『それ、なんぼなの? 調べてください』と。前の社長ならすぐに金をかけると思いますが、桂田社長は『それは本当に必要なの?』という議論からスタートするんです。船って毎日運航するものだから、今すぐに必要なものもあるんですが、腰が重かった」

 桂田氏との意見の衝突が重なった折、松村さんは自身の手で遊覧船事業を買い戻そうと決意した。

「『KAZU I』の船名は、創業社長の名前に因んで付けられたもの。加えて親戚が創業したというのもあり、僕なりに思い入れもあった。経営権や船の価値を見積もった結果、高くても3000万円で譲ってもらえたら良いなと思って交渉したんですが、桂田社長は『5000万円なら』と。結局、すぐに買い取るのは難しかったのですが、ゆくゆくは分割で返済しながらでも経営できればいいなと思っていました」

消息を絶った観光船「KAZU I」(会社HPより)

 だがその矢先の2020年12月、桂田氏は松村さんにこう言い放った――。

「松村さんだけを残して、他の4人を新しいスタッフにしようと思うんだけど」

 刹那、松村さんは憤りを感じたという。