不動産投資・賃貸経営には魅力的な環境
オーナー自身の「学び」が成否を分ける
値上がり益や定期収入を期待する手段として、不動産投資を検討する人は多い。地価やマンション価格が高騰するいま、どのように不動産投資と付き合うべきか。不動産コンサルタントの沖有人氏のアドバイスを基に考察する。
人口減でも世帯数は増
家賃は上昇傾向にある
国土交通省の2024年の地価調査(基準地価、7月1日時点)によると、全国平均の全用途平均・住宅地・商業地はいずれも3年連続で上昇した。三大都市圏の全用途平均は3.9%のプラスで、4年連続の上昇となる。また都心の新築マンションは、1億円超えが当たり前になるなど、足元の不動産市場は活況が続いている。
地価に関しては、コロナ禍からの経済活動の回復や訪日外国人観光客の増加などが、上昇の原動力と考えられる。一方、都心マンションについて「新たな投資家の増加がさらに価格を引き上げている」と指摘するのは、不動産コンサルタントの沖有人氏だ。2023年3月に首都圏の新築マンションの平均価格が1億4300万円となり、単月で初めて1億円を突破した。この値上がり報道が国内外の富裕層や法人といった新たな投資家を呼び込む契機になったという。
「新築マンションを自宅として購入したい人が買えない現状は、やはり健全ではありません。ただ、緩和的な金融環境が継続し、ディベロッパーが資金調達しやすい現状を鑑みると、価格は当面、下がらないでしょう」(沖氏)
さらに首都圏では家賃が上昇傾向にあることも、不動産市況の好調さを裏付ける。「人気のエリアでは、賃貸住宅の稼働率が90%台後半であることも珍しくありません。入居したくても空室が圧倒的に足りず、家主にとっては家賃を上げやすい状況です。人口減少社会に突入した日本では賃貸ニーズが減少するという指摘がありますが、それは間違い。人口は減少しても、単身世帯や外国人の増加などで、世帯数は増加傾向にあります」と沖氏。これらを踏まえると、不動産投資や賃貸経営を実践するには、依然として魅力的な環境といえそうだ。
とはいえ、それは人気のエリアに限ったこと。最寄り駅から遠いなど、利便性に欠ける場所・物件で安定的な収益を期待するのは難しい。もしも賃貸ニーズの低いエリアに更地を所有しているのであれば、売却、もしくは不動産の遺贈寄付といった選択肢を検討してもいいかもしれない。
すでに賃貸経営をしている不動産オーナーへのアドバイスとして沖氏は「家賃を上げやすい環境なので、前向きに検討していいでしょう。重要なのは、物件の稼働率にこだわらないことです」と話す。
稼働率100%はNG
家賃を上げる機会を残す
従来は空室があれば家賃を下げてでも埋めたいと考えたかもしれないが、現在は家賃を上げても、その物件に魅力があれば入居者は集まりやすい。無理に稼働率100%にするのではなく、空室を残し、家賃を上げる機会を常に持っておくべきというわけだ。
また、家賃以外の不動産投資のリターンの手段に売却益がある。それについても沖氏は「売却という選択肢は当面ありません。収益を生む物件の価値はまだ高まるので、持ち続けるのが賢明です」と話す。
賃貸経営には家賃の滞納リスクなどもあるため、家賃保証会社の存在は欠かせない。万一の時にも保証が途切れない会社を選びたいものだ。もちろん、不動産オーナーとして収益を上げ続けるには、信頼できる不動産業者選びも重要になってくる。
「現在の不動産市況を理解している業者を選ぶことが大前提です。それを見極めるためには、オーナー自身も不動産市況について勉強し、理論武装する必要があります」(沖氏)
最新の不動産市況を学ぶ手段の一つとして、沖氏は、J‐REIT(不動産投資信託)のIR資料を読むことを勧める。例えば、三井不動産をスポンサーに持つ住宅特化型REITの日本アコモデーションファンド投資法人の決算説明資料をみると、稼働率の推移や賃貸住宅の⼊替時の賃料動向、エリア別・住宅カテゴリー別の⼊替時賃料変動率の推移などがすぐにわかる。
「代表的な住宅系J-REIT2~3社の決算資料に目を通すだけで、現状の不動産市況や賃料動向などを、大まかに把握できます。付き合うべき不動産業者は当然、こうした情報や知識を理解している会社です」と沖氏は強調する。オーナー自身が学ぶことで、より良い不動産業者と出会う確率も高まるはずだ。安定的に収益を生みだす不動産投資・土地活用を行うためにも、ぜひ実践してほしい。
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