集団レイプの被害者に
父の克也は、早苗が小学5年生の年から7年連続で自校のラグビー部を花園出場に導いた時期だった。当時の生活をこう自省する。
「僕が親として足りなかったから早苗がグレたのかなと思う部分はあります。小さなうちはできるだけ早く帰って一緒に過ごして、中学生になる頃には帰りが遅くなっても大丈夫かと思ったけれど、寂しかったり嫌なことがあったりしたのかなと。でも、毎日授業をして生徒指導もして、部活では全国大会出場を維持して、大きくなった子どもの世話を四六時中するのは物理的にできなかった。結局、早苗が家出しては夜中に探しに行くことを繰り返して、対応が後手後手になった感じでした」
事件後、こうした克也の育児がネグレクトだったとする声があった。事件から3年以上たっても「宮崎勤(元死刑囚)の父親のように早く自殺しろ」といった電話がかかってきたという。ただ、シングルファザーにはシングルマザー以上にロールモデルがない。家にゴミが溢れることがあっても、克也もまた独力で何とかしようとしていた。
高圧的な父親だったのではないかと指摘する声もあったが、これには克也自身は首を傾げる。
「叱る時は叱りましたが、手は上げないし怒りを引きずらないように心がけていましたし、家では怖いお父さんではなかったような気がします。普通に会話して、一緒にトランプやゲームもしました」
だからこそ、早苗の家出が解せなかったという。
「すぐ見つかる日もあれば数日かかる時もありましたが、『あ、お父さん』とホッとした様子で一緒に帰るんです。僕が『頼むから家出だけはせんといて。心配だし事件に巻き込まれたら困る』と言うと、ケロッとした顔で『わかった』と約束する。それなのに翌日にはいなくなったりする。その繰り返しでした。しまいに『あなたが考えていることは分からん。嫌なことがあるなら言うてみい』と問いただしましたが、嫌なことはないと話していた直後に、突然違う人格になるようにまた家出するんです」
実は早苗は中学2年生の時、集団レイプに遭っていた。山中で男たちから殴る蹴るの暴行を受けたうえ、代わる代わる性暴力を受けたという。克也は後年の早苗の逮捕後、警察から聞かされて初めて知った。解離性障害は性犯罪被害者に多い症状とも言われている。(本文敬称略)
※本記事の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(秋山千佳「大阪二児放置死 祖父は『十年前に戻りたい』」)。
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