子供が相次いで殺害される事件が、平成18年に秋田県山本郡藤里町で起きた。犯人として逮捕されたのは畠山鈴香。事件後に流れた歳月は犯人・遺族の心境にどのような変化をもたらすのか。ノンフィクションライターの小野一光氏が、改めて現場を歩いた。
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抗うつ薬や睡眠導入剤を大量に飲んでいた
鈴香は03年12月頃から、能代市内の総合病院にある精神科に通院していた。彼女と幼なじみの女性は、同病院で鈴香と会ったと、07年の取材で私に答えている。
「事件の前の年なんですが、私は待合室で鈴香と何度か会っています。彼女は精神科に来てたのですが、本人曰く『手や足が突然激しく震えだして止まんねえんだ』というのです。実際、私も目の前で彼女の全身が震えだし、体を押さえて止めようとしたことがあるんですが、10分近くその状態が続くのです。こういうことがよくあるのかと尋ねたところ、『ときどきあるから(病院に)来てる』と答えていました」
(鈴香の父親が経営する会社で働いていた)Z氏によれば、鈴香は処方された薬を、決められた分量を守らずに飲んでいたそうだ。
「もうな、両手に載るくらいの量をいっぺんに飲んでたのよ。あれはいくらなんでも飲みすぎだべって……」
処方されていたのは、抗うつ薬や睡眠導入剤など。秋田地裁で開かれた鈴香の公判での、弁護側の冒頭陳述には次のような記述がある。
〈平成17年(05年)のゴールデンウィーク、鈴香被告は自殺を決意。病院でもらった薬をため込み実行したが、量が足りずに目的を遂げられなかった。自殺志願者のサイトにもアクセス。いつかまた決行するかもしれないとの思いが、Aちゃん(*原文実名)の死亡事故まで続いていた〉
そのうえで鈴香が心神耗弱状態であったことを訴えている。一方の検察側は、冒頭陳述で以下のことを述べた。
〈鈴香被告は平成15年(03年)12月から、さまざまな不定愁訴的症状を訴え、精神科で服薬治療を受けているが、神経症圏に属する症状が現れているにすぎず、精神病にかかっているとは認められない〉
そして検察側は、〈犯行時には完全責任能力を有していたと認められる〉と主張した。
結果として、鈴香の完全責任能力について、秋田地裁は次のように判断している。
〈A殺害後の被告人の心理に、記憶の抑圧という特殊な作用が働いていたことを十分に考慮しても、犯行当時、被告人に完全責任能力が存したと認めるのが相当である〉