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「相手の意向に合わせる、いわゆる迎合性が強い」

 公認心理師で「こころぎふ臨床心理センター」センター長の長谷川博一氏は、鈴香の控訴審において、弁護側から供述心理鑑定の依頼を受け、拘置所にいた彼女と面会を繰り返した。それは、調書に記載された供述の内容を心理学的に検討するというものだ。長谷川氏は言う。

「それまでは、テレビで流れていたメディアスクラムでパニックに陥って、報道陣を睨みつけて罵声を浴びせたり、テレビカメラを手で覆ったりする怒りに満ちた姿だったので、そういうきつい性格を想像していました。しかし実際に彼女を目の前にすると、ひどく痩せて弱々しく、おどおどしていたことで印象が一変します。か弱くて、それこそすがるような、依存心が強いタイプだと思いました。事前に持っていたイメージとの乖離が大きくてびっくりしました」

生後間もないAちゃんを抱く鈴香

 鈴香との面会のなかで心理検査を実施した長谷川氏は、彼女の特徴として明らかになったことを著書で明かしている。

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〈意図的に嘘はつかない。

 かえって自分に不利な言動をとる。

 相手の意向に合わせる、いわゆる迎合性が強い。

 相手の示唆を信じ込む被暗示性が強い。

 自尊心が低い。

 他人の心を知ろうとする傾向が乏しい。

 日常的に解離傾向を有する。〉(『殺人者はいかに誕生したか』新潮文庫より)

警察が殺害現場だと主張した大沢橋 ©時事通信社

「鈴香さんの解離性健忘は精神鑑定でも認定されていますが、これはもともと彼女が持つパニックに陥りやすいという特性のなかで起きたものです。そこに幼少期からの父親によるDVや、学校でのイジメなどによるトラウマが複雑に絡み合って、心を防衛するための解離を起こしやすい状態にあった。なので、Aちゃん事件の前にも、そしてその後も、同様のことがありました。健忘というのは、その記憶を持つことが、本人にとって重大な心理的危機を招くときに生じます。Aちゃんが亡くなった際の出来事がそれにあたり、彼女は記憶をなくしているのです」

 長谷川氏は、捜査段階における鈴香のAちゃん事件についての自供は、記憶が上書きされたものではないかと見ている。

本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(小野一光「平成凶悪事件と「その後」 平成18年 秋田児童連続殺人事件篇 第4回」)。