知ればいっそう身近になる 小さな一歩で社会を変える
遺贈寄付の始め方
個人が死んだ後に、遺言書などに基づいて行われる「遺贈寄付」。誇りに思える人生の集大成の寄付として、いま少しずつ広がりを見せている。遺贈寄付を実践するには何から始めればいいのだろうか。全国レガシーギフト協会事務局長の小川愛さんに話を聞いた。
Q.地震や台風などの被災地の方々の力になればと、日頃から少しずつ寄付を続けています。遺贈寄付は、普通の寄付とどう違うのですか?(50代女性)
小川 元気なうちに実施する寄付に対して、遺贈寄付は個人が死んだ後にその方の思いに基づいて実施するものです。全国レガシーギフト協会では、遺言書や信託を活用したご本人による寄付と、相続財産からご遺族が行う寄付の両方を遺贈寄付と呼んでいます。遺贈寄付は実数をとらえるのが難しいのですが、国税庁へ相続税申告された相続財産からの寄付に限定すると、2015年から件数が少しずつ増えてきています。
Q.遺贈寄付は、遺産のある富裕層の方の社会貢献だと思っていました。私はそんなに蓄えがありませんが、例えば少額でも寄付できるのでしょうか。(80代男性)
小川 もちろんです。これから遺贈寄付に関心を持つ方が増えれば、少額の遺贈寄付もどんどん広がっていくでしょう。また、寄付は資金面での援助にとどまりません。昨年国立科学博物館がクラウドファンディングでおよそ9億円を集めたことが話題になりましたが、担当の方は「金額の多寡にかかわらず、こんなにも大勢の方が博物館を応援しようと寄付を寄せてくださったという事実が何よりも励みになった」とお話しされていました。活動の意義を理解し、応援してくれる人がいるという事実そのものが、困難に向き合う大きなチカラになるのです。
Q.母親が亡くなった際にまとまったお金を残してくれましたが、私自身には財産を引き継ぐ子どもがいません。私の死後、財産が国のものになるのなら、動物好きだった母の思いをくんで動物愛護団体へ寄付をしたいと考えています。(50代女性)
小川 おひとりさまやお子様のいないご夫婦の場合、亡くなると財産は親族に相続される、あるいは相続人がいない状態であれば国に所有権が移ることになります。それならば、自分の意思で世の中をより良くするために遺贈寄付をしたいと遺言書や信託を準備される方は多いですね。また、近年は長寿化の影響で、財産を受け継いだ相続人も高齢の「老老相続」が増えています。自分のためにもお金を使い、最後に残った財産は社会を良くするために使いたいという方も多く、遺贈寄付がその受け皿になっています。
Q.遺言書を作成するのは少し大げさな感じがして、遺贈寄付の準備に二の足を踏んでしまいます。遺言書はなくても、遺贈寄付をする方法はありますか。(60代男性)
小川 遺言書のほかには、信託や生命保険を利用した遺贈寄付の方法もあります。また、遺言書はなくとも故人の思いを受け継いだ相続人が、ご本人に代わって相続財産から寄付する方法もあります。この場合は、手紙やエンディングノートなどで「死後は財産からこの団体に寄付してほしい」という意向を伝えておくといいでしょう。どの方法にもそれぞれにメリットやデメリットがありますから、ご自分にあったやり方を選べるといいですね。海外では、必要な項目を入力すると自動で遺言書の雛形ができるオンライン遺言書作成サービスなども出てきています。日本でも、遺言書を作りたいという思いをスムーズに実現できるような仕組みが望まれます。
Q.どの団体に寄付をすればいいのかで悩んでしまいます。寄付先選びのポイントはありますか。(70代女性)
小川 遺贈寄付は実現まで時間がかかるうえに、寄付をする瞬間を自分で見届けることができません。だからこそ寄付を受け入れてくれる団体が信頼できるか、活動や理念に共感できるかをしっかりと見極めていくことが大切です。例えば、まずは「お試し寄付」をして、NPOや慈善団体と交流を持ってみることをお勧めします。寄付をするとお礼状とともに活動報告などが届くため、自然とその団体への理解が深まり、遺贈寄付にも結びつきやすくなります。
Q.遺贈寄付を考えているというと、家族に驚かれました。まだ日本では遺贈寄付は特別なことなのでしょうか。(70代女性)
小川 決してそんなことはありません。最近では終活の意識の高まりに伴い、遺贈寄付がメディアで取り上げられる機会も増え、遺贈寄付の認知度が上がってきていると感じます。終活の中で誰もが葬儀やお墓について考えるのと同じように「遺贈寄付はどうしようかな」と自然と思い浮かべられるようになるといいですね。現在、日本では年間50兆円が相続されていると言われています。その1%でも遺贈寄付にまわれば、社会課題の解決はぐっと前に進むはずです。