十分に解明されなかった、P3C疑惑
つまり、ロッキード事件には、トライスターとP3Cの二つの核がある。そして、後々の購入規模からも、賄賂と見られる裏金の額からも、事件の本丸と見られていたのは、P3C疑惑だった。しかし、トライスターをめぐる疑惑に関しては、田中角栄をはじめ複数の政府高官が逮捕・起訴されたのに対し、P3C疑惑は十分に解明されなかった。
村山治氏や奥山俊宏氏をはじめロッキード事件を取材してきた記者の多くは、その理由を事件の捜査にあたっていた東京地検特捜部がトライスター疑惑の証拠固めに手いっぱいで、P3C疑惑には手が回らなかったためだと考えてきた。
命令は、どこから来たのか?
ここで冒頭の堀田氏の発言にもう一回耳を傾けよう。
「P3C関係のやつは聴くな」
という命令が、当時の特捜部長・𠮷永祐介からなされた、というのだ。言い渡されたのは、堀田氏がロッキード社前副会長コーチャン氏への嘱託尋問(1976年7月)のためにアメリカに向かう前のことだ。堀田氏は、この命令は𠮷永氏よりももっと上から来ているとも語った。
つまり、この証言は、P3C疑惑が解明できなかったのは、特捜部の力不足からではなく、𠮷永氏率いる特捜部にそうさせまいとする力が働いていたからであることを物語っている。
その力はどこから来たのか? なぜ、そのような力が働くことになったのか?
村山治氏と奥山俊宏氏による堀田力氏へのインタビューの全容は、「文藝春秋 電子版」および「文藝春秋」11月号(10月10日発売)に掲載されている。
ロッキード事件捜査 カミソリ検事が明かした異常な命令