エリート会社員という安定した立場を捨て、好きなことを仕事にする人がいる。プロマジシャンのCOZY氏(32)もその一人だ。
新卒で入社した大手企業を退職し、一時は貯金がゼロになるほどの苦境に陥っていたCOZY氏に、それでもなぜマジシャンの道を諦めなかったのか、話を聞いた。(全2回の1回目/続きを読む)
学習院大から港区の大手企業に進んだエリートが抱えた“モヤモヤ”
COZY氏は裕福な家庭で育ち、大学を卒業するまで「ちゃんとした生き方」を貫いてきた。マジックには幼少期から興味があったものの、マジシャンになりたいと思ったことは一度もなかったという。
「大学受験も就活もメジャーなところを受けて、どこかに入れればいいかな、と思っていました。人と違う選択よりも、みんなと同じルートを外れないことを優先した生き方をしていたと思います」
横浜出身で神奈川県内の中高一貫校を卒業後、学習院大学へ入学。就職活動も難なくこなし、東京都港区に本社を置く大手メーカー企業への就職を決めた。
「商社からも内定をもらっていたんですけど、いくら給与が良くても激務は嫌だったのでホワイトな働き方ができそうで安定した大手のメーカーに決めました。本社採用で、年収は1年目から400万円を超えるぐらい。港区の高層ビルでほどほどに働いて出世コース、という生き方をなんとなく思い描いていました」
順風満帆な社会人生活をスタートしたはずのCOZY氏だが、入社1週間にして暗雲が立ち込めることになる。
「研修期間が終わって働き始めたら、自分の未来がすべて見通せた気がしてしまったんです。35歳くらいで課長になって、多分30歳前後で結婚して定年まで働いて……という、それまで自分が目指してきたルートが、いざ現実になってみたらとても味気ないものに感じてしまって……。すると、本当にこれでいいのかなと急に焦りが生まれたんです」
これまでメジャーな選択しかしてこなかったという自分の人生を振り返り、本当にやりたいことを見つめ直した結果、行き着いた答えが「マジシャンになる」だった。