朝日出版社のホームページに〈朝日出版社経営陣からM&Aについての緊急のお知らせ〉とただならぬ報せが掲載されたのは10月21日のことだった。

〈小社のM&A(株式譲渡)のお話は、基本的には株主さまのご都合から生じたものです。経営不振による会社売却などではありません〉

 翌日、朝日新聞が『朝日出版社「経営陣全員クビ」M&Aでトラブル、労組はスト権確立』という記事を配信し、世間の注目が一気に集まることになった。

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朝日出版社 ©︎文藝春秋

 出版関係者が解説する。

「騒動のきっかけは創業者で会長の原雅久氏が2023年4月に87歳で死去したことでした。原氏が同社の株を100%保有しており、奥様が7割、娘さんが3割を相続。経営陣は遺族からの自社株買いを検討していたのですが、今年5月、遺族側の金融アドバイザーから『株式は都内の合同会社に売る方針』と一方的に告げられた」

買い手は“東スポ餃子”の仕掛け人だった

 買い手となった合同会社は、都内に本店を置く戸田事務所だ。同社をめぐり、意外な事実が「週刊文春」の取材で明らかになった。

「戸田事務所は不動産業や物流事業、印刷事業を手掛ける実業家の戸田学氏によって2018年12月に設立されました。同じく戸田氏が代表取締役を務めるグループ会社の戸田商事は、2020年8月に大和フーズを完全子会社化。この大和フーズが、2022年に東京スポーツ新聞社とコラボして仕掛けた『東スポ餃子』が大ヒットしています」(経済部記者)

東スポ餃子を手がける(戸田商事公式HPより)

 そんな“やり手”経営者の突然の登場に、朝日出版社側は期待を寄せるかと思いきや、逆に不信感が募る一方なのだという。9月に解任された朝日出版の前社長小川洋一郎氏は、小誌の取材にこう話す。

「戸田社長本人とは最初の顔合わせの一度しか面談ができず、朝日出版のこれまでの事業や出版物について明確なコメントはなかった。出版事業に興味はなく、会社が所有する本社の土地を売却することが目的なのでは」

小川前社長 ©︎文藝春秋

 朝日出版社の現役社員もこう憤る。

「うちの会社には、短絡的な利益追求はしないという出版社としての矜持があります」

 渦中の戸田社長は、何を思うのか。取材を申し込むと、対面で応じた。

 そして、開口一番「なぜこのような事態になっているのか。心外です」と反論する。

――遺族と株式譲渡契約を結んだ経緯は。

「遺族が朝日出版の株を売りたがっているというのは、(M&Aの)業界では知られていた話です。金融アドバイザーを介して、譲渡の話が進んでいった」

 そして、M&Aのこれまでの詳しい経緯や今後の朝日出版について60分にわたって持論を述べるのだった。

 現在配信中の「週刊文春 電子版」では、朝日出版社のM&A騒動をどこよりも詳しく取材。小川前社長が語る解任までの経緯や、現役社員たちの声、買収した戸田社長による反論などを報じている。

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