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遺贈寄付のはじめ方Q&A

全国レガシーギフト協会 事務局長
日本ファンドレイジング協会事務局長
小川 愛さん
全国レガシーギフト協会 事務局長
日本ファンドレイジング協会事務局長
小川 愛さん

個人が死んだ後に、遺言書などに基づいて行われる「遺贈寄付」。人生最後の社会貢献であり、自らを誇れる方法として少しずつ認知度が広がっている。遺贈寄付を実践するには何から始めればいいのだろうか。全国レガシーギフト協会事務局長の小川愛さんに、寄付に関心のある女性からの質問に答えてもらった。

【Q】地震や台風などの被災地の方々の力になればと、日頃から災害支援団体への寄付を続けています。遺贈寄付は、こうした普通の寄付とはどう違うのですか?(50代女性)

【A】小川  元気なうちに実施する寄付に対して、遺贈寄付は個人が死んだ後にその方の思いに基づいて実施するものです。全国レガシーギフト協会では、遺言書や信託を活用したご本人による寄付と、相続財産からご遺族が行う寄付の両方を遺贈寄付と呼んでいます。死後の寄付ですので、今の生活や老後への影響がなく、まとまった金額の寄付が可能となります。最近では終活の意識の高まりに伴い、遺贈寄付がメディアで取り上げられる機会も増え、遺贈寄付の認知度が上がってきていると感じます。終活について考えるなかで、「遺贈寄付はどうしようかな」と自然と思い浮かべられるようになるといいですね。

【Q】遺贈寄付は富裕層の方の社会貢献だと思っていました。私にはそこまでの蓄えはありませんが、少額でも遺贈寄付はできるのでしょうか。未来を担う子どもたちのためにわずかでも残せればと考えています。(80代女性)

【A】小川  もちろんです。これから遺贈寄付に関心を持つ方が増えれば、少額の遺贈寄付もどんどん広がっていくでしょう。また、寄付は資金面での援助にとどまりません。2023年国立科学博物館がクラウドファンディングでおよそ9億円を集めたことが話題になりましたが、担当の方は「金額の多寡にかかわらず、こんなにも大勢の方が博物館を応援しようと寄付を寄せてくださったという事実が何よりも励みになった」とお話しされていました。活動の意義を理解し、応援してくれる人がいるという事実が、困難に向き合う大きなチカラになるのです。

【Q】母親が亡くなった際にまとまったお金を残してくれましたが、私自身には財産を引き継ぐ子どもがいません。私の死後、財産が国のものになるのなら、動物好きだった母の思いをくんで動物愛護団体へ寄付をしたいと考えています。(50代女性)

【A】小川  おひとりさまやお子様のいないご夫婦の場合、亡くなると財産は親族に相続される、あるいは相続人がいない状態であれば国に所有権が移ることになります。それならば、自分の意思で世の中をより良くするために遺贈寄付をしたいと遺言書や信託を準備される方は多いですね。また、近年は長寿化の影響で、財産を受け継いだ相続人も高齢の「老老相続」が増えています。自分のためにもお金を使い、最後に残った財産は社会を良くするために使いたいという方も多く、遺贈寄付がその受け皿になっています。

【Q】私たち夫婦には子どもがいないため、お互いのために終活を始めることにしました。お墓やお葬式などの希望はすぐ決まったのですが、遺言書を作成するのは専門家への相談などが必要で手間がかかるため先延ばしにしています。遺言書がなくても、遺贈寄付をする方法はありますか。(60代女性)

【A】小川  遺言書のほかには、信託や生命保険を利用した遺贈寄付の方法もあります。また、遺言書はなくとも故人の思いを受け継いだ相続人が、ご本人に代わって相続財産から寄付する方法もあります。この場合は、手紙やエンディングノートなどで配偶者に「死後は財産からこの団体に寄付してほしい」という意向を伝えておくといいでしょう。どの方法にもそれぞれにメリットやデメリットがありますから、ご自分にあったやり方を選べるといいですね。

【Q】子どもたちとも相談のうえ、死後に財産の一部を遺贈寄付するつもりです。ただ、どの団体が信頼できるのか、どこに寄付をすればいいのかで悩んでいます。寄付先選びのポイントはありますか。(70代女性)

【A】小川  遺贈寄付は実現まで時間がかかるうえに、寄付をする瞬間を自分で見届けることができません。だからこそ寄付をする団体が信頼できるか、活動や理念に共感できるかをしっかりと見極めていくことが大切です。例えば、まずは「お試し寄付」をして、NPOや慈善団体と交流を持ってみることをお勧めします。寄付をするとお礼状とともに活動報告などが届くため、自然とその団体への理解が深まり、遺贈寄付にも結びつきやすくなります。

Column
おひとりさま・おふたりさまのエンディングノートの活用法

おひとりさまやおふたりさまの場合、認知症などで判断能力が低下したときや亡くなった後の手続きを、あらかじめ第三者に頼んでおく必要があります。そこで、自分に関する情報や思いを伝える手段となるのがエンディングノートです。いきなり完成を目指す必要はありません。まずは必要な項目だけでも大丈夫。以下に一例を紹介します。

財産

現預金や保険、有価証券などの情報をまとめて記入します。一つひとつ記入するのが面倒でしたら、キャッシュカードや通帳などをコピーしてファイリングしておく形でも構いません。借金などの負債情報も書き入れておくことを忘れずに。住宅ローンや自動車ローンなどはもちろん、個人間でのお金の貸し借り、連帯保証なども記録しておくと、死後のトラブルを避けやすくなります。ご夫婦の場合はご自身に債務や保証がない場合でも、配偶者は異なるかもしれません。知らぬ間に保証債務を受け継いでいた……という事態がないよう注意しておきましょう。

医療・介護

エンディングノートに自身の病歴や常用薬、主治医の連絡先などの情報がまとまっていると、緊急時に医療機関で適切な対応がしやすくなります。また、自らが意思表示できない事態に備えて延命治療や尊厳死に対する考え方や希望も書いておきましょう。入院や手術などにかかるお金をどこから、どのように支払うのかも大事です。あらかじめ整理しておきましょう。認知症保険など指定代理請求特約付き保険や代理出金機能付き信託があれば、その旨も書き添えます。

デジタル資産

スマートフォンのパスワードやSNSのIDなどがなければアクセスできない情報が増えています。これらもエンディングノートなどに記録しておくと、いざというときにも助かります。パスワードなど秘匿性が高い情報には、スクラッチシールを貼っておくと簡単に目隠しができ、必要なときには削ればいいので便利です。このほかにネット証券や動画配信のサブスクリプションサービスなどの情報もまとめておきましょう。

遺贈寄附推進機構
代表取締役 齋藤弘道さん
遺贈寄附推進機構
代表取締役 齋藤弘道さん

エンディングノートは遺言書とは異なり、法的効力はありません。しかし知人や専門家などに手続きを依頼する前にエンディングノートで整理しておけば、誰に、何を頼むのかが明確になり、準備を進めやすくなるなど、終活を円滑にする効果があります。人生を振り返り、思いを自由に表現したエンディングノートは、その方が生きた証として受け継がれます。自分自身を見つめ直すきっかけとして、ぜひエンディングノートを活用してください。