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非正規が急増した理由とは

 1970年代以降、オイルショック不況時などに大企業が採用した雇用調整の慣行をもとに裁判所の判例が確定していき、いわゆる「整理解雇の4要件」((1)人員削減の必要性、(2)整理解雇の回避努力義務、(3)人選の妥当性、基準の公平性、(4)労働者への説明義務、労働組合との協議義務)が整理されました。

 これを背景に、企業は解雇の是非を問われる裁判を恐れ、1990年代後半の不況時に非正規社員が急増することになったのです。

大竹文雄氏(本人提供)

 大企業としては評判が悪くなるので判例を守らないわけにはいかない。しかし正社員を取りすぎると、将来景気が悪くなった場合も雇用調整ができない。そこで非正規社員を大量に雇って雇用調整に備えたのです。それが「就職氷河期」を生んでしまいました。

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 解雇規制の問題に私が経済学者として取り組んだのは、こうした問題意識からです。企業側も多大な損失を被っています。教育訓練など、非正規社員に人的投資をするインセンティブはなかなか働きませんから、非正規社員が多ければ、企業全体の労働生産性は低くなる。これが日本全体の企業の生産性が伸びなくなった一因になったと私は見ています。

労組に頼れない労働者

 問題は、ルールが不透明で、すべてが裁判所の判断に委ねられている点にあります。裁判で解雇が「無効」とされて職場復帰しても最終的には金銭を受け取って退職しているのが実態ですし、労働審判でも多くが金銭解決です。

 しかし、法律的には「金銭解雇」が認められておらず、社員は「不当な解雇」だと裁判所に訴えるにしても原職復帰を求める「地位確認訴訟」しかないのです。欧州では金銭で労働契約を解消する金銭解決制度が広く認められ、勤続年数などにしたがって解決金の水準にも一定のルールが設けられています。

 ですから厚労省の検討会でも、まずは「金銭解雇」のガイドラインをつくった方がいいと提案してきたのですが、「ケースバイケースだからルールで決めるのはよくない」「労働審判制度で迅速に処理できる」という理由で強硬に反対してきたのが、労働組合側です。

 しかし中小企業が多い日本には労組に頼れない労働者が多く、労働審判制度も「迅速」と言っても約80日間はかかります。すると結局、泣き寝入りする人の方が多くなるのです。

本記事の全文は「文藝春秋」2024年12月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています(大竹文雄「解雇規制が大量の非正規を生んだ」)。