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憧れの小笠原道大さんの前でモノマネを披露した、ある雨の日のできごと

文春野球コラム ペナントレース2018  対戦テーマ「雨」

2018/05/30
note

「小笠原さんのモノマネをやれ」という無茶振り

 あれは確かプロ4年目でしたね。横須賀でのジャイアンツとの試合は、練習の段階で雨脚が強くなり中止に。練習は室内練習場で行われることになりました。室内練習場を使うときは、ホームチームが1時間使用した後、ビジターチームと交代します。ホームチームの最後の20分くらいになると、練習場の隅の方でビジターチームのウォーミングアップが始まります。この日も、私が練習場の隅のゲージで一人打ち込んでいる目の前で、ジャイアンツの選手がウォーミングアップを始めました。

 ネットを隔てた目の前で、私が神のように憧れていた小笠原さん(現中日二軍監督)がストレッチをしています。普段二軍にいることなどほぼありませんでしたから、目の前にいるだけで非日常です。そしてその奥には、矢野謙次さん(現日本ハム)がストレッチをしています。その矢野さんと目があったとき、矢野さんは必死にアイコンタクトで何かを私に伝えてきます。どうやら、小笠原さんのモノマネをやってくれ、というサインです。確かに、私はおそらく球界で最も小笠原さんのモノマネがうまい選手でしたから、本人の目の前でモノマネをするなんて、見ている人からしたらたまらない状況だったでしょう。ただ、やる本人としてはさすがに気が引けます。結局、矢野さんの無茶振りと迫力に押され、やることに。

高森勇旗が現役時代、モノマネを得意としていた小笠原道大 ©文藝春秋

 何球か打っていると、矢野さんが爆笑しているのもあって、ジャイアンツの選手が次々にこちらを向いてストレッチを始めます。そして、みんな笑い始めます。想像してみてください。小笠原さんの真後ろで、小笠原さんのモノマネをしまくっている他球団の若手選手がいる様子を。それは、面白いですよね。私から見えているのは、小笠原さんだけがこちらに背中を向けてストレッチをしていて、あとの選手は全員こちらを向いて笑っている様子です。小笠原さんがこちらに気づくのも時間の問題です。そしてついに、小笠原さんが異変に気がつきました。「どうしたの?」と矢野さんに聞くと、「後ろでガッツさんのモノマネしてるヤツがいます」といって小笠原さんが振り向く時の時間は、まるでスロー再生されたかのごとくゆっくりだったことを覚えています。

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(これはもう開き直ろう。どうせやるなら、失礼のないように全力でやろう)

 と心に決め、全力でモノマネをやりきりました。大爆笑のジャイアンツの選手たちを横目に、いろいろな汗をかきまくってバッティングゲージを出ました。すると、小笠原さんがツカツカとこちらに歩いてきます。

(あぁ、ついに俺は球界の大御所を怒らせてしまった)

 後ろで相変わらずニヤニヤとしている矢野さんの顔が随分と憎らしく見えます。憧れの小笠原さんが目の前で立ち止まり、ゆっくりと口を開きました。

「うまいじゃん」

 その瞬間、ジャイアンツの選手の大爆笑とともに、私自身も安堵から一気に力が抜けて膝から崩れそうになりました。それ以降、小笠原さんに名前を覚えてもらい、なんとバットまでいただけることに。そのバットは今でもケースに入れて飾ってあります。(矢野さん、一瞬でも憎んでしまい、すみませんでした! 今ではものすごく感謝しています!)

モノマネを「うまいじゃん」と言ってくれた小笠原道大 ©文藝春秋

 さて、なんの話をしていましたかね。そう、雨の話です。雨のことを書こうと思っていたら、あらぬ方向へ行ってしまいました。雨の季節です。みなさんは、どんな雨のエピソードを持っていますか?(終わり方が超強引なのは、原稿の途中で大雨が降り、雨天コールドゲームで強制終了ということにしておきましょう)

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