「糸井が凄いのはもう知ってるわ……」と関西の野球ファンに言われそうだが、今一度、37歳を迎えるシーズンでも衰えを見せない“超人”を分析する。

 チームは現在、打率、得点、本塁打ともにダントツでセ・リーグ最下位。極度の貧打に陥っている阪神打線は今や「糸井頼み」だ。打撃主要3部門の打率.303、30打点、9本塁打(6月4日現在)はいずれもチームトップ。つながらない打線の中で堂々たる数字を残している。ベテランの域に入っても高いパフォーマンスを維持する理由を、周囲は「天才」などといった言葉で表現するが、阪神移籍後、ずっと取材してきた自分が思うに、糸井に適した言葉は「探究力」である。

37歳を迎えるシーズンでも衰えを見せない“超人”糸井嘉男 ©文藝春秋

球界異例の“ボディービルトレーニング”

 移籍1年目の昨季の自己評価は「全部の成績に納得いってない」。負傷離脱などで114試合出場に終わり打率は.290。過去7度、3割を超えた男からすれば物足りない数字で、挽回のためにオフには球界異例の“ボディービルトレーニング”に着手した。

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 サプリメントの提供を受ける江崎グリコ社の縁で、17年「メンズフィジーク」日本チャンピオンの石井良亮氏と手を組んだ。フィジークとは上半身、下半身の筋肉のバランスなどで評価を受ける競技で、筋骨隆々が必須な通常のボディービルとは少し違う。その世界で日本王者に輝き、筋力アップや栄養摂取などに精通している同氏に、糸井自ら教えを請うた。

「筋肉とか、トレーニングについてすごく詳しいし、あれだけの成績を残している選手なのに、色々質問してきてくださって、正直驚きました」

 石井氏が驚きの表情で振り返るほど、糸井はどん欲に求め、自らの肉体をいじめ抜いた。主に大胸筋を鍛えるベンチプレスや、広背筋、大臀筋を鍛えるデッドリフトといった、「打球や送球にパワーが伝わる」トレーニングに重点を置き、マンツーマンで鍛える日々。特に意識したのは背筋で、それは「去年、何回かあった。“えー!”みたいな」と攻略できなかった甲子園の浜風に打ち勝つため。「意味のあるトレーニングができた。野球に生かせる自信もある!」と、手応え抜群の自主トレになった。

ボディービルトレーニングに密着した際の紙面 ©スポーツニッポン