“最後の無頼派”と呼ばれた直木賞作家の伊集院静さんが、肝内胆管がんによって、2023年11月24日に73歳で亡くなってから一年。伊集院さんの後半生を支えたのは、妻の篠ひろ子さんだ。女優として絶頂期だった44歳のときに、2歳年下の伊集院さんと結婚。その後は出演作を減らし、50歳を前に芸能界を去った。
伊集院さんの一周忌を前に改めてお話を伺いたいという編集部の依頼に、76歳になった篠さんは話すだけであればと引き受けてくださった。伊集院さんと交流が深かった阿川佐和子さんを聞き手に、24年ぶりにメディアに登場する篠さんがはじめて明かす伊集院さんの最期とは――。『週刊文春WOMAN2025創刊6周年記念号』より、一部を編集の上、紹介します。
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「ずっと会わないでいると会いたくなる人」
伊集院さんが初めて小説を文芸誌に発表したのは81年(「皐月」)だったが、『受け月』で直木賞を受賞したのは92年7月。篠さんと結婚するわずか1か月前だった。伊集院さんと1984年に結婚した夏目雅子さんが、翌年、27歳の若さで亡くなってからの「放浪」もあり、当時から「最後の無頼派作家」などと言われ、それが伊集院さんの定番になった。二人の出会いは篠さんが40歳のころ。夏目さんの逝去から3、4年経った頃だった。
阿川 とにかく、気が合った、って感じ?
篠 でも恋愛感情とか、そういうんじゃないの。
阿川 えー、酔った勢いとかも?
篠 全然ない。そういう人じゃないんです、あの方は。
阿川 篠さんは?
篠 ないです。
阿川 そんな、間髪入れず(笑)。
篠 恋愛って、もう会わないではいられないってなるものでしょ。そういう感覚は一切ない。会おうって電話が来ても、平気で断ってました。ただずっと会わないでいると会いたくなる人だった。
阿川 インパクト強いもんなあ(笑)。
篠 (笑)。あのね、私、その頃って、うじうじ泣いてた人なんです。
阿川 え、意外。男っぽい方なのかと思ってました。