2カ月後に父親はこの世を去り、母親も人知れず病で…
この飛松氏の聞き取りからわずか2カ月後の18年8月、父親はこの世を去る。獄中にいた勝田がこの訃報を知ることができたかどうかは分からない。他所に嫁いだ姉は以前から家族と距離を置いており、実家に1人残された母親は地域で孤立を深め、20年の正月に人知れず病で亡くなる。
「奥さんは独りぼっちだったから。少しずつ話しかけるようにはしていたけど、元々挨拶してもあまり返してくれない人で……。年明けても顔を見ないなと思って、玄関の戸を叩いたり電話したりしても反応がなかったから、民生委員さんや町内会の班長さんと一緒に訪ねたら、既に冷たくなっていた」(近隣住民)
今回改めて記者は、勝田の実家を訪ねた。主を失った家には誰も住んでおらず、庭の草は伸び放題。母親が可愛がっていたという地域ネコが、今でも玄関口の近くに陣取って人々の生活を眺めていた。登記簿謄本によると、家と土地は、父親から相続した勝田の姉によって今年10月8日付で不動産業者に売却されていた。
あの夫婦は自分たちの世間体しか考えていなかった
購入した業者を訪ねると、
「(津山市の事件の犯人の実家という)いわくつきの物件だとは聞かされていたけど、『もう判決も出ていて、終わった話ですから』ということだったので、買わせてもらった。そしたら、今度は今回の事件の報道が出てきた。『もう購入できない』って言って、話をナシにしてもらいました。登記も元に戻してもらいます」
なぜ勝田の姉はこのタイミングで土地と家の売却に動いたのか。弟が新たな未解決事件について自白したことを再逮捕の前に知っていたのか? 勝田の姉の元を訪ねると、姉は不在でその夫が対応し、
「おらんよ。もう出ていった。何も分からないね……」
と疲労の色をにじませて答えるのみだった。
飛松氏が振り返る。
「たしかに父親は、あの家を『売りたいんやけど、誰か知らんか』って言ってました。結局、ずっと一貫して、あの夫婦は罪を犯した息子のことではなく、自分たちの世間体しか考えていなかった」
俺が死ぬまで喋るな――。
勝田州彦の人生を歪めるほどの虐待を繰り返した父の命令は息子に届いていたのか。「自分より弱いから」という理由で手あたり次第に少女を殺傷した稀代のサディストが、18年の沈黙を破って明かすのは真実か、それとも……。