これまでノンシリーズの短編集にはあとがきをつけてきたので、それにかこつけてというか、今回もそれにならい、あとがきを附すことにした。ぼくは人のあとがきを読むのが大好きで、隙あらば自分でも書こうとするからだ。いま試みに書架にある本のあとがきをいくつか読んでみたけれど、やはりというか、そのときにしか書かれえない空気感のようなものがあって楽しい。小説本体はできるだけ普遍を目指すものだから、余計にそう感じるのかもしれない。
というわけで――。
本書はぼくの3冊目のノンシリーズ短編集で、テクノロジーにまつわる話を集めたものとなる。こういう本を作りたいと考え、これまであちこちで書きためてきたものだ。小説作品としては、18作目にあたる。各短編の初出が文芸誌からウェブ媒体、SF専門誌から技術誌と、さまざまな領域を横断しているのも特徴かもしれない。以下、それぞれの収録作について。
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暗号の子
書いたのはわりと最近で、2024年の4月から5月にかけて。これまで書きためてきたテクノロジー関係の短編を総括するような作をと考え、取り扱ってきた諸要素をちりばめることにした。それだけでなく、無自覚に反復している要素や題材も多々ある。それは今回一冊にまとめるにあたって気がついた。わりと適当なものである。
初出は『文學界』の2024年10月号。
「新たな共同体の試みとその蹉跌」みたいな展開が好物なので、そういう話を書いた。完全自由主義が出てくるけれど、これはテクノロジーと完全自由主義が結託して、人間性を剝ぎ取りにかかってきているような、そういう感覚をこのごろ特に強く感じるから。が、単に敵視するのも安易に思えたので、視点人物をテクノロジーや完全自由主義の側に置いた。
作中に登場する街灯と木々の比喩は、チェスタトンの『木曜の男』から引いている(だから参考文献に『木曜の男』がある)。どうせチェスタトンから引くなら小説ではなく評論、『異端者の群れ』や『正統とは何か』あたりに同じような喩えがあったはずだから、そちらを引くほうがかっこいいと思ったのだけれど、該当箇所を見つけられず、面倒になってあきらめた。
偽の過去、偽の未来
初出は『Kaguya Planet』というSFレーベルのウェブ媒体で、発表は2021年の9月。
ちょうどこのころ、テクノロジーを扱った短編集を将来出したいと考え、プロトタイプ的に今後扱いたい諸要素をいろいろとちりばめてみることにした。だからその意味では、「暗号の子」と対をなす掌編ということになる。
この当時、「2050年を予測して書いてほしい」といった依頼が多くあったことが、作中に影を落としている。『指輪物語』や「ダンジョンズ&ドラゴンズ」はその反対、ノスタルジーを象徴するものとして登場させた。現代のテクノロジーに大きな影響を与えた一人、ピーター・ティール氏もそれらが好きだったということはあとで知った。こういうふうに、無意識のうちにピースが嵌まるような瞬間があるとテンションが上がる。