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 2ヵ月前、雅也さんは実家近くの親戚を訪ねた。ときどき食事を届けるなど何かと父を気遣ってくれるが、そのぶん雅也さんには手厳しい。「息子だったら面倒見なさいよ」「ウチに甘えるのもいい加減にしてくれ」……シビアな説教をされた上、思わぬ話を聞かされた。

父みたいな年寄りを引き受ける介護施設はないと言われて

「父みたいな年寄りを引き受ける介護施設は地元にないと。本当かどうかはともかく、酒乱となると確かに条件は厳しいでしょう。介護保険や相談窓口があるのは知ってますが、本人の意思や家族の協力はどうしたって必要ですよね。いろいろ考えるんだけど、考えるほど憂鬱になって逃げたくなるんです」

 ふぅーっと長い息を吐く。憂鬱を払うように頭頂部をゴシゴシッと掻きむしると、ぎこちない笑顔を作ってみせた。

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「親との関係がうまくいかず、介護に悩む子どもはたくさんいます。むずかしいのは、自分の親が本当に毒親なのかという『見極め』です」

 こう話すのは、遠距離介護の家族を支援する『NPO法人パオッコ』の太田差惠子理事長だ。死んでも関わりたくないほどの毒親なのか、少しくらいは助けてやろうと思えるのか、自分の気持ちを整理することが大事だという。

親との「縁の切り方」

「各地域には、高齢者の生活や介護の相談窓口である地域包括支援センターがあります。自分だけでいいので、まずはここを訪ねてどんな支援をしてもらえるのか確認してください。過去に虐待されていた、親が暴力的、家族関係が悪い、そういう事情があるなら隠さず伝えましょう。その上で親との縁を切るのか、それとも何かできるのか、相談員と話し合うことが大切です」

「縁を切る」としたら、必ず行政につないでおく。日常的に介護していたのに、突然放棄すると、保護責任者遺棄罪などに問われる可能性があるからだ。また、自分が親と絶縁すると別の身内に面倒が及ぶこともある。兄弟や親戚には事前に状況説明をするといい。

罪悪感が拭えないときには

「何かできる」とすれば、自分が関われる範囲を決める。たとえば親が施設入所となったとき、「面会には行かないが、身元保証人にはなる」などと具体的に一線を引いておく。雅也さんのように罪悪感を拭えず、気持ちが揺らぐ場合にはこんな考え方もあるという。

「世の中には子どものいない高齢者がいる。でも、みなさんふつうに生きてますよね。つまり、自分が背負わなくてもどうにかなると割り切ってもいいんです」

 毒親に関わることで破滅するくらいなら、自分の人生を優先していい。「逃げてもいいんだ」、そう考えれば楽になり、あらたな視界が開けるかもしれない。

 それでも、現実には逃げられない子どもも少なくない。破綻を招くことに気づかずにみずから親との距離を縮めてしまう、次回はそんなケースについて報告しよう。

#2 「気力、体力、財力が充実した『ハイブリッド老婆』に苦しめられる長女」
#3 「うつ、パニック障害を抱え、老親の年金で暮らす独身姉妹の絶望」 に続く