果たして自分の親は毒親なのか、早智子さんに限らず自問する人は多いだろう。子どもを育て上げ、協力を惜しまず、長寿のために摂生するような親との関わりを、なぜ「苦しい」と感じるのだろうか。
巧みに「非力」を演出して家族の関心を集める
臨床心理士として、長年にわたり母娘関係の問題に取り組んできた原宿カウンセリングセンター所長の信田さよ子氏は、「よくあるケースですよ」と苦笑する。
「気力、体力、財力がそろい、それを動力に変える『ハイブリッドばあちゃん』。母親自身は無自覚ですが、内心では娘の不幸は蜜の味、自分より幸せになるのが許せないんです。高齢になるにつけ、立場を逆転させまいとよりハイパワーになる人も多いですね」
この手の母親は単に力を誇示するだけではない。甘えや泣き落とし、すねたり情緒不安定になったりして実力を行使する。暴力的、高圧的な態度を取ることなく、むしろ「非力」を演出して家族の関心を集め、何かしてあげなくてはと思わせる母親もいるという。
巧妙で狡猾なだけに、子どもは容易に取り込まれてしまうが、ではこんな親とどう接すればいいのだろうか。
「たとえば親に対する言葉遣いを変える。『やってよね』じゃなく『やってください』『お願いします』というふうに、丁寧な言い方をしてみてください」
他人行儀に接することで心理的距離を置く。親子と思うとできないことも、親をひとりの高齢者と見て、自分はヘルパーだと割り切ればやりやすくなる。
親が感謝してくれるかもという期待は捨てる
ただし、親に変わってほしいとか、感謝してくれるかもといった期待は捨てたほうがいい。ずっと主導権を握ってきた親は、そう簡単には変わらないからだ。
「ある種の政治のように、うまく立ち回って親を利用するくらいのしたたかさを持ちましょう。人の感情は『考え』があって出てきます。この親も利用次第だ、そう考えれば出てくる感情も変わるんです」
あらたな関係性を作るためには味方を持つ。家族の理解を得られればいいが、それが無理なら似たような境遇の人と仲間になる。親への同情や罪悪感に揺れることもあるだろうが、真に守るべきは彼らの身ではなく自分の生活だ。なぜならこの先の人生は、子どものほうがはるかに長い。
とはいえ、当の子世代には実のところ深刻な問題が潜んでいる。未婚化や貧困化で、「自分の生活を老親に依存する」という現象が起きているのだ。その詳しい状況は次回に述べよう。
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