再検証されて価値を高めた
――田中角栄はロッキード事件があってからは「闇将軍」と呼ばれていましたが、近年では、「理想的なリーダー」として語られることが増えています。
田中さんには誤解が複雑に被せられて、実体がよく知らされていないところがありました。亡くなった後になって、田中さんの良かったところが再検証されると、あの人は魅力的だった、能力があったと評価されるようになった。みなさんに興味を持たれて、本を作ろうという対象にもなった。また、田中さんの流れを汲む政治家たちにとっても、「あの時、自分たちはそこにいた」ということが語られるようになり、再び価値を高めています。
――今の政界では「叩き上げ」の象徴として、菅義偉官房長官が注目されています。
私が自民党を飛び出してから、政界に出てきた人だから、よく知らないんだけども、小沢一郎氏がやっていたやり方を一部変えているだけ。昔の政治を知っている人たちだったら誰もがやっていた基本的なやり方をしているだけでしょう。
昔の自民党では政策は自由だった
――田中さんがいた頃の自民党と、今の自民党では何が違いますか。
当時の自民党は一人ひとりを大切にしながら政治をやっていた。人間関係がものすごく濃く、信頼関係も厚く、党のためというより親分のために汗をかいた。リーダーの下で汗をかくことが当然で、その結果、党が強くなった。政治の重さが全く違った。
たとえば、政策の問題だって、派閥の親分や党の幹部から「集団的自衛権(の行使容認)に協力しろ」とか、「そんなこと言うのはやめろ」なんてことは一切言われなかった。政策は自由。だけど、困った時には助け合う。仲間がいいポストを持ってきてくれる。そういうことで互助会としての機能があったから、強い絆で結ばれていた。
今、安倍晋三氏が強権的にやれるのはなぜだと思いますか。派閥が弱くなり、党内が一枚岩にならなければならないからです。自分の保身のためですから、党内の反主流派には「党から出て行け」という強烈な批判を浴びせられます。
自民党は以前の選挙(1993年、2009年の衆院選)で野党暮らしになった。大変だった。だから、今は「あのような思いは二度としたくない」という思いだけでまとまっている。もたれ合うことにメリットを感じている。何かの使命感を持っているんだとか、リーダーに情熱を感じているんだとかでまとまっているのではない。
そういうことですから、安倍氏はいずれ行き詰まると思いますけど、行き詰まったらどうするかと言ったらわからない。誰も青写真を描ける人はいない。それは野党も同じ。
田中さんの時代には、「あの人が行き詰まれば、次はこの人だよね」とちゃんと決まっていたし、自民党の中でもちゃんと反対意見が言えたから、非常に活発な議論もできた。リーダーが反対意見も聞くような文化があったけど、そういうものは、今の自民党になくなってしまった。