森喜朗の「ご宣託」
森喜朗は年内の衆院解散をすすめていたのである。これを一面トップに載せる地元の北國新聞にもしみじみしてしまう。「ご宣託」を伝えているつもりだろうか。権力をチェックしない新聞は自らが権力になってしまい、言論機関の役割を果たせない。
森喜朗の言葉は今読むとマヌケに思えるが、いや、もしかしたら裏金問題が大炎上する前に早く解散してしまえという「ご宣託」だったのかもしれない。NHKが『自民5派閥の団体 約4000万収入不記載で告発 特捜部が任意聴取』と報じたのが約1週間前だ(11月18日)。「みんな早く逃げて」と森喜朗は叫んだのだろうか。しかし5人衆は逃げられなくなった。
今回の裏金報道で「5人衆」のほかに、しっかり考えたいフレーズがもう一つある。それは「安倍一強」だ。
おさらいすると清和会(現安倍派)は自民党では長く傍流だった。しかし小渕恵三首相が2000年4月に倒れ、清和会の森喜朗が首相となった。あまりに不人気すぎて森は約1年で退陣したが、その後の小泉純一郎が大人気となった。
結果として清和会は森喜朗、小泉純一郎、安倍晋三、福田康夫と4人の首相を出した。さらに安倍首相は2度目のときに長期政権を築いて「安倍一強」と言われた。安倍派は菅義偉・岸田政権にも影響力を及ぼしている。
長いあいだ「安倍一強」は権力の集中をあらわす言葉だったが、ここにきて、長期にわたる権力は腐敗するという定番フレーズを証明する言葉となった。
やりたい放題だった「安倍一強」
そういえば安倍一強は検察人事にも手を突っ込んでいた。検察庁法改正案である。本来のルールなら黒川弘務東京高検検事長は「定年」で「退官」するはずだった。しかし安倍内閣は2020年1月31日の閣議決定で、黒川氏の定年延長を決めたのだ。当時の記事を見てみよう。
《政府関係者によると、次期検事総長の人選は、昨年末から官邸と法務省との間で水面下で進められた。同省から複数の候補者が提案されたが、安倍首相と菅官房長官は黒川氏が望ましいとの意向を示したという。》(読売新聞2020年2月21日)
ギョッとする。こんなことが普通に書かれていたのだ。保守派の産経新聞も社説で次のように驚いていた。
《あまりに不自然である。黒川氏の定年延長ありきで恣意的に法解釈を変更したと疑われても仕方があるまい。》(同年2月24日)
やりたい放題だった「安倍一強」。しかし安倍氏が亡くなり、派閥のトップも決まらないまま漂流しているうちに今回の裏金疑惑である。一気に「闇」が出てきた。ジャニーズ問題といい、今年の漢字は「闇」でもいい気がする。
