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俺たちはなぜ、阪神・尾仲祐哉に頑張ってほしいのか

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/07/28
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なぜ、尾仲祐哉に頑張ってほしいのか

 そんな尾仲のあるシーンが、記憶に深く残っている。それは、マウンドに上がったときの声援だ。一際大きく、温かい声が送られていた。シーズン序盤は特にだ。その要因を、「人的補償だから」、「可哀想だから」との言葉で語ることはできるが、もっと深い理由があると考えた。

 なぜ、尾仲祐哉に頑張ってほしいのか。それは、「自分が経験するはずのない“人事”を受けた若者」と、ファンが、自らの人生と重ね合わせて見ているのではないだろうか。一般社会で生きる人間は、そんな経験、するはずがない。だから、意識はなくても自然と声は大きくなるし、熱が入るのではないか。それに、尾仲はまだ2年目の23歳だ。会社員でいえば、やっと仕事を覚え始めたところでの転勤みたいなものだ。

「東京の○○スポーツのエース記者を採用するから、お前はそっちにいってくれ」。私に置き換えればこうだ。受け入れられる訳がないし、怒るし、病む。会社勤めの方々は共感してくれるだろう。

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 そんな境遇でも文句一つ言わず黙々と腕を振り続ける尾仲の姿は心に刺さる。本人やプロ野球関係者は「当たり前のこと」と思うだろうが、私を含め、一般人と呼ばれる者は、心の底から「頑張れ!」「抑えてくれ!」と願ってしまう。

 マスメディアに身を置く人間として、選手個人に「応援」の気持ちを抱いてはならないと思っている。それでも、特別な「ドラマ」を持つ選手がグラウンドに立つと、どうしても、見入ってしまう。

巻木周平(スポーツニッポン)

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