俳優、映画監督、プロデューサーと、さまざまな形で作品作りに携わるオダギリジョー。松田正隆による戯曲を映画化した『夏の砂の上』では、主演と共同プロデューサーを務め、キャスティングから仕上げまでの全工程に関わった。

「これまで30年近く俳優業をしてきた経験から、脚本を読んだ瞬間にこれは良い作品になると感じました。プロデューサーの甲斐(真樹)さんとは、お互いに気心の知れた仲だったので、これまで自分がやってきた経験が何かお役に立てば、という思いで、すぐに協力を申し出ました」

 

「森山さんはとくにイチ推しでした」

 共同プロデューサーとして参加したのは作品への本気度を示すためでもあったという。「松(たか子)さんや満島(ひかり)さんに『自分も責任を取るつもりでやっています』という意思表示をしたかったんです」

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 なかでも配役にこだわったのは、森山直太朗だった。

©︎2025映画『夏の砂の上』製作委員会

「もちろん、松さんも満島さんも引き受けてくれたらうれしいという思いはありましたが、森山さんはとくにイチ推しでした。誤解を恐れず言うと、一見普通に見えるのに、あれだけ歌がうまく、話も面白い確かな才能の持ち主。主人公の治の妻・恵子が惹きつけられたのも、その底知れぬ不思議な魅力があって然るべきだと考えたので、この3人がオファーを受けてくださった時点で、良い作品になる予感が確信に変わりました」

長崎でのロケハンにも参加

 もう一つ重視したのはロケーションだ。街を主人公としてとらえるために、オダギリもロケハンから参加した。

「玉田監督の頭のなかには、最初から治の家へと続く長い坂道のイメージがあったと思います。1回目のロケハンはシナリオと擦り合わせながら街の雰囲気をみんなで確かめ合い、治の家をどのあたりに設定するかを視察するシナハン(シナリオ・ハンティング)に近いものでした」

©︎2025映画『夏の砂の上』製作委員会

 何度もロケハンを重ね、坂の多い長崎の街の見せ方や、山と海の距離感、治が働いていた造船所をどう見せるかを組み立てていった。

「真ん中に海があり、その海を囲むように山がある。どこにカメラを向けても絵になる街だと思いました。細い坂道が多く、車も自転車も入らないから、ゆるやかな時間の流れも描きやすい。多くの映画監督が長崎や尾道の坂の街を撮りたがる気持ちが理解できました」