セリフを極力減らしたことによる“効果”
舞台版は会話中心で構成されているが、映画版では登場人物のセリフが非常に少ない。
「玉田さんは極力セリフを排除しようとしていました。とくに僕が演じた小浦治のセリフは極端に少ない。これはおそらく、余計なものを省くことで、言葉以上の思いを映像で観せたかったのだと思います。僕も説明的なセリフは省きたいタイプなので、深く共感できました」
この省くことこそ、まさに映画制作に必要な作業だと言う。「時間や画の切り取り方、そしてもちろんセリフもそうですが、省くことでその環境や状況を観客に想像させることができます。映画は決して答えを渡すものではないので、あまりにも説明的なセリフや、『こう受け取ってください』というあからさまな表現は避けるべきだと思っています」。
読後感のある“終わり方”にも注目
映画はまた、終わりどころも重要だと語る。「あそこで終わればよかったのに……、という作品もありますが、本作の終わり方には、潔さと心地の良い読後感を感じます」。
本作での治と姪の優子の空気感は、オダギリが好きだというジム・ジャームッシュの映画『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(84年)を想起させる。
「映画はその時の見方で作品の色合いが変わるので、もしそんなふうに観てくださる方がいるなら、僕としてはすごくうれしいです」
写真 榎本麻美
西村哲也=スタイリング
砂原由弥=ヘアメイク
衣装協力:S'YTE
おだぎり・じょー 1976年、岡山県生まれ。『アカルイミライ』(02年)で映画初主演。『血と骨』(04年)で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。初の長編映画監督・脚本を手がけた映画『ある船頭の話』(19年)は、ヴェネチア国際映画祭に出品。待機作に、ドラマ版に続いて脚本・監督・編集・出演を務めた映画『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』(25年秋公開)がある。
原作は、第50回読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞した長崎出身の松田正隆による戯曲。平田オリザが98年に舞台化し、映画化は今回が初となる。監督・脚本を手がけたのは、次世代の映画界を担う玉田真也。自身の劇団「玉田企画」でも22年に本作を上演している。豪華キャストの共演も見どころ。主演のオダギリジョーを筆頭に、日本を代表する実力派俳優陣と、2025年度後期NHK連続テレビ小説のヒロインに抜擢された高石あかりが作品世界に彩りを添えている。
STORY
雨が一滴も降らない、からからに乾いた夏の長崎。幼い息子を亡くした喪失感から妻・恵子(松たか子)と別居中の小浦治(オダギリジョー)。働いていた造船所が潰れても新しい職を探さず、ふらふらしている治の前に、妹の阿佐子(満島ひかり)が、娘の優子(高石あかり)を連れて訪ねてくる。阿佐子は、1人で博多の男の元へ行くためしばらく優子を預かってくれという。こうして突然、治と姪の優子との同居生活がはじまることに……。
STAFF & CAST
監督・脚本:玉田真也/原作:松田正隆(戯曲『夏の砂の上』)/出演:オダギリジョー、高石あかり、松たか子、森山直太朗、高橋文哉、満島ひかり、光石研/2025年/101分/配給:アスミック・エース/©2025映画『夏の砂の上』製作委員会

