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「大迫半端ないって」が今後ずっと忘れ去られない理由

「大迫半端ないって」が今後ずっと忘れ去られない理由

2018/07/05
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 私はサッカーについてほぼ何も知らない。先日「サッカーの日本代表の名前、挙げてみ」と言われ、咄嗟に口をついて出たのは「か、釜本……」だった。知識が断片的な上、時系列が歪むタイプの無知である。

 だから6月19日の夜、突如としてSNS上に現れ、そして見る間に増殖していった「大迫半端ないって」という文字と男性の似顔絵を見て、「きっとワールドカップで(ワールドカップが開催されていることくらいは知っている)大迫という選手が活躍したのだな、そしてこれは大迫選手の似顔絵だろうな」と思っていた。

10年ぶりに「大迫半端ないって」を思い出させてくれた功労者 ©JMPA

「大迫半端ないって」について分かったこと

 日本代表FW・大迫勇也が1次リーグH組・コロンビア戦で決勝点を挙げたこと、「大迫半端ないって」とは昨日今日作られたフレーズではなく2008年度の全国高校サッカー選手権で生まれたこと、似顔絵は大迫本人ではなく発言主の滝川二高・中西隆裕主将(当時)であることは翌日知った。サッカーファンにとっては既知の「大迫半端ないって」が、一晩にして私のような者も知るところとなった理由としては、会場でサポーターが掲げた「大迫半端ないって」幕がテレビに何度も映し出されたこと、実況中継したNHKの鳥海アナウンサーが「半端ないヘディングシュートがありました」とコメントしたことなどが影響していたのかも知れない。そして多数のツイートに反映され、瞬く間に拡散した。

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 通常、爆発的に流行した現象や言葉がグッズ化されるのにはどんなに早くとも数日を要する。しかしそこは10年前から存在していたフレーズである。既に4年前には「OSAKO HANPA NAITTE」が商標登録され、Tシャツも商品化されている。案の定Tシャツは品薄状態となっているようだが、「流行のグッズが一刻も早く欲しい」という欲望をここまで迅速に満たした例は稀なのではないだろうか。

新聞の見出しと「半端ない」との親和性

 ただしここまでなら「大迫選手の活躍で既存のフレーズが再注目されたのね」で済む話であっただろう。しかし話はそれだけでは終わらなかった。ほどなくして大迫だけではなく「〇〇半端ないって」という応用例が大発生したのである。コロンビア戦直後の20日にはまだ落ち着いていたスポーツ新聞各紙も、21日になるとありとあらゆる面で「半端ない」を展開し始めた。

「大迫 人間性も半端ない」「後輩も恩師もテンション半端ない」(スポーツニッポン)など大迫本人に関連する記事はまだ良いとして、野球記事にも「巨人の大迫だ 岡本もハンパないって」(スポーツ報知)「小川監督が指令 半端ない菅野打て」(スポーツニッポン)の見出しが並んだ。本当に高橋由伸監督(巨人)や小川淳司監督(ヤクルト)がそう言ったのか、記者が水を向けたのではと勘繰りたくもなる。他にも「半端ない長期連載ドカベン完結」「牝馬ヴィブロス半端ない」、果ては「日本代表選手来たら半端なく胸元開ける」というグラドルが期間限定オープンするアイスクリーム店の記事まで(スポーツニッポン)。新聞記事になるということは何かしらの「半端なさ」を備えた対象なのであるから、新聞の見出しと「半端ない」はある意味親和性が高いのかも知れない。