無生物にまで使用できる「応用性の高さ」
SNSでは推して知るべし。身近な友人から芸能人、果てはマスカラ下地からカツ丼などの無生物に至るまで「〇〇半端ない」と称賛されている。早くも「大迫半端ないって」は今年の流行語大賞ノミネートが有力視されているが、他の流行語との大きな相違点はこの「応用性の高さ」ではないだろうか。「大迫半端ないって」に続く「あいつ半端ないって! 後ろ向きのボールめっちゃトラップするもん、そんなんできひんやん、普通」という部分も含め、「〇〇半端ないって! あいつ半端ないって!《〇〇が凄いことをあらわすエピソード》するもん、そんなんできひんやん、普通」というテンプレートに褒めたいものを当てはめるだけで最大級の賛辞が完成する。読者参加型の流行語である。
しかし「半端ない」という表現そのものは多くの人に浸透している。『広辞苑』第六版(2008年刊)には掲載されていない「半端ない」が、2018年刊の第七版には「【半端無い】〘形〙(「半端ではない」の省略から)はなはだしい。ものすごい。」と掲載された。これを「大迫半端ない」の影響と見る向きもあるが、既に人々の間に浸透していたからこそ中西主将の口をついて出たと見る方が自然であろう。
使われ続ける「新語」か、忘れ去られる「流行語」か
新語アナリストの亀井肇氏は著書の中で、新しく誕生する「新造語」には、誕生後、常に人々に使われ続け辞書などにも載る「新語」と、誕生直後に大きな影響力を及ぼすものの飽きられて忘れ去られる「流行語」の2種類があると指摘している(『外辞苑』平凡社・2000)。
「大迫半端ないって」は辞書に載っている点で「新語」でもあり、大きな影響力を及ぼしている点で「流行語」でもある、新しいタイプの新造語なのではないだろうか。
流行語の常、「飽きられて忘れ去られる」点においてはどうか。影響の強弱はあれど、10年もの間存在し続け多くの応用例を生み出していることを考えると、「大迫半端ないって」が今後忘れ去られることはないのではないだろうか。それは恐らく大迫の活躍と共に何度も何度も吹き上がる。「半端ない」Tシャツは処分してはならない。恐らく今後何度も着ることになるだろうから。その後、日本代表は決勝トーナメント1回戦で2-3とベルギーに敗れた訳であるが、「大迫半端ない」の動きには今後も注視していきたいものである。