世間から忘れられゆく時代のなかに、かつての憧れを見る者たちがいる。昭和の車を愛してやまない、酔狂なオーナーたちの素顔とは?
◆◆◆
「大きくなったら全部あげるよ」
バイク運搬用に15年前に購入したサニートラックで、休日のイベントに訪れていた60代男性の田中さん。かつては愛車で妻と各地を巡っていたというが、いまや「せっかくの休みなのになんでわざわざ」といわれているそう。
「今日は孫と二人で来てるんだよ。同居じゃないんだけど、娘家族が週末になるとよく来るから、もう随分前から預かるようになってさ。俺がこういう集まりに行こうとすると、カミさんが『一緒に連れて行きなよ』って」
孫への気持ちは、まさに溺愛そのもの。
「孫はもう車やバイクが好きみたいだから、大きくなったら全部あげるつもりだよ」と話す。
そんな愛車と孫をめぐる温かな光景の一方で、かつての憧れが空回りするケースもある。幼少期に父親が乗っていた型のセリカXXを手に入れた「じゅんいち」さんは、意外な反応に直面した。
「父の反応は想像以上にドライだったんですよ。『こんな乗りにくい車にはもう乗れない』といって、まったく興味を示さなくて。おまけに『もういい大人なんだから、いい加減落ち着いた車に乗りなさい』とまでいわれてしまったんですよね」
それでも彼は「セリカに乗る楽しさがなくなるわけじゃない」と、自分の感覚を大切にしている。
「こうき」さん一家は2歳と0歳の子どもを育てながら、なんと7台もの車を維持。愛車の整備のため、夢だったガレージハウスまで購入した。
「車のために100坪超の土地を選んだので、正直かなりの額になりましたが、妻の後押しもあってもう覚悟を決めるしかないと」
幸いにも妻も大の車好き。「結婚したあとも、子どもが生まれてからも、車の趣味を一緒に楽しんでくれていて、ありがたいかぎり」と、家族ぐるみの車ライフを満喫している。
一方、バッチバチにキメたリーゼントに真っ赤な作業服という出で立ちでフェアレディZに乗る「ムネ」さんは、妻からの理解は薄い。
「ドライブに誘っても、『見られるのが恥ずかしいから乗りたくない』なんていわれちゃって」と苦笑いしながらも、旧車の魅力に虜の彼は楽しげに愛車への思いを語る。
「最近の車ではどうにもワクワクできないんです。反対に、このL型エンジンのフィーリングや整備性には、長く乗るほど抜け出せなくなる魔力があるんですよね」
◆◆◆
昭和の車に魅せられた人々の物語は、愛車への情熱だけでなく、家族との関係や人生の選択をも映し出す。彼らの言葉からは、単なる趣味を超えた、生き方そのものが感じられるのだ。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。







