女性同士の性的欲望を自由に描きたかった

──その視線は現代的でもありますね。SNSにみられる承認欲求のような感覚というか……。

ルケッティ監督 まさにそうです。アメーリア(ディーヴァ・カッセル)が画家のモデルをしていることを知ったジーニア(イーレ・ヴィアネッロ)が、「誰かに私の肖像を描いてほしい」と言うシーンがありますが、それも「誰かに見られたい」「いいねが欲しい」と願う今の若者と同じです。つまり、自己承認の在り方は、過去も今も変わらないということなのだと思います。

画家のモデルをしているアメーリア ©2023 Kino Produzioni, 9.99 Films

──同性への憧れや欲望も率直に描かれていました。

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ルケッティ監督 女性同士の性的欲望については、これまでさほど描かれてきませんでした。でも私は女性の欲望を、もっと自由に描きたいと思っていたのです。

 ジーニアは男性画家と関係を持ちますが、それはあくまで“社会が求める通過儀礼”として。本当に心を動かされたのは、アメーリアなんです。

 オフィーリアのようにアメーリアを描いたのは、美と死、欲望が混ざり合ったイメージを表現したかったから。欲望と死は遠いようで近い存在だと思っています。

異性との性交を経験したジーニアは、自分が本当に愛する人が誰なのかに気づく ©2023 Kino Produzioni, 9.99 Films

──昆虫や動物など、自然のモチーフも印象的でした。

ルケッティ監督 パヴェーゼの作品には「自然を救済の場、都市を喪失の場」とする対比が多く描かれているので、それを「自然は人間を救い、都市は人間を損なう」という主題として再構成しました。

 具体的に言うと、ジーニアは自然に近い存在で、アメーリアは都市の象徴。この対比を映像で表現するために、虫や動物など自然の象徴を多く配置し、夜の都市はあえて不穏に演出しています。

──薄いヴェールがかかったような色合いも印象的でした。衣装や美術もとても洗練されていて、1930年代が舞台なのにとても現代的に感じました。

ルケッティ監督 脚本執筆中から、色相環をずっと意識していました。オリーブグリーン、淡いブルー、砂糖紙のような水色……。その中にアメーリアの象徴であるボルドーだけを配置したの。

 もちろん、美術監督や衣装監督とも協力しました。黄色の壁の前に紫色の服を着た俳優を立たせる演出なんてしたくないもの(笑)。

 当時の空気感を再現するうえで意識したのは、衣装や家具も30年代らしいものを使いながら、現代の若者たちが「これ、自分たちと変わらない」と思えるよう意識したこと。少年たちのポロシャツや少女たちの靴、テーブル、椅子など、細部までこだわりました。