「あなたたちには何の興味もないです」
横尾 なりますけれども、ちょっと違うんですよね。観客のためのエンターテインメントとしてのサービスは一切してないんですよ。
アトリエで描く時よりも、そういう鑑賞者がいる公共的な場所で描いたほうが、僕自身が解放されるんです。アトリエで描いているとどうしても頭脳的な作業になっちゃう。言語的とか観念的な作業になる。だから極力それを排除して、言葉とか観念を僕の中から追放して、なるべく頭を空っぽに、ものを考えない状態で、あたかもアスリートの瞬間芸みたいな感じで描くんです。
アトリエでは、自分でそういう操作をしなきゃいけないんですけど、公開制作の場所に行くと、みんなの視線が一斉に僕の体に、背中に突き刺さってくる。そうすると、考えが自然になくなっていく。どうでもいいやという感じになっていくんです。「あなたたちのために僕は描いているんじゃないんだ。ただ、あなたたちのエネルギーを僕は利用して、活用して、そのエネルギーで描いているわけで」と自分の中で切り替えができます。
成田 誰でも人前に出ると頭が真っ白になることがありますよね。その創造的な活用ですね。
横尾 真っ白にしないと、観念的な、コンセプチュアルのほうに行ってしまうんです。コンセプチュアルな作品は考えて考えてとことん考え抜いた結果、作っていくんだけど、僕はとことん考えない。ひたすら考え抜かない状態で、身体的なものだけになった時に絵を描くんです。公開制作の時も、身体性そのものにしてくれるんです。
成田 他人の目はなぜ身体性そのものを引き出してくれるんでしょう。
横尾 他人の目があったほうが空っぽになる。やけくそになっちゃうんですよ。観客を呼んだにもかかわらず、僕の方では「あなたたちには何の興味もないです」という気持ちなんです。だけど、彼らの興味によって僕は描かされているという、その矛盾が面白い。(構成・伊藤秀倫)
※本記事の全文(約1万2000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(成田悠輔の聞かれちゃいけない話 第4回 ノーカット完全版・前編)。全文では、下記の内容をお読みいただけます。
・僕はお金とか経済のことは全然分かりませんよ
・ひたすら考え抜かないで描く
・僕は財布も持ってません
・病院が好きな理由
・小説家はみんな嘘つき
・僕の趣味は「買書」でした
・禅寺で“道場やぶり”
・飽きちゃうから変えるだけ
■連載「成田悠輔の聞かれちゃいけない話」
第1回 米倉涼子 独立して扱われ方が変わりましたよね。ギャラとかも
第2回 隈研吾 大きな新築は宿命的に炎上するんじゃないかな
第3回 上野千鶴子 あなたは世代間対立をあおっています 前編・中編・後編
第4回 横尾忠則 僕は病院が好き。自分を知る「哲学」になるから 前編<<今回はこちら・後編(7月26日に公開予定)
第5回 野田秀樹 演劇ほどコスパの悪いもの、なかなかないですよね?〈ダイジェスト版〉 ※完全版は近日公開
第6回 冨永愛 日本のファッションは、このままでは駄目ですか?〈ダイジェスト版〉 ※完全版は近日公開

