独立して扱われ方が変わりましたよね。ギャラとかも〈13000字ノーカット完全版〉

第1回

米倉 涼子 女優
成田 悠輔 経済学者

電子版ORIGINAL

エンタメ 社会 芸能

経済学者・成田悠輔氏がゲストと「聞かれちゃいけない話」をする新連載。第1回目のゲストは、女優の米倉涼子さんです。

 

■成田悠輔の聞かれちゃいけない話

第1回 米倉涼子(女優) ダイジェスト版/完全版 今回

第2回 隈研吾(建築家) ダイジェスト版/完全版

第3回 上野千鶴子(社会学者・東京大学名誉教授) ダイジェスト版/完全版 前編・中編・後編 

第4回 横尾忠則 ダイジェスト版/完全版 前編・後編

第5回 野田秀樹(劇作家・演出家) ダイジェスト版/完全版 前編・後編 

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第9回 仲里依紗(俳優) ダイジェスト版/完全版 前編・中編・後編
第10回 椎名林檎 ダイジェスト版/完全版 前編・中編・後編 

第11回 本庶佑(京都大学がん免疫総合研究センター長) ダイジェスト版/完全版 前編・中編・後編

第12回 黒田東彦(前日本銀行総裁) ダイジェスト版/完全版 前編・中編・後編

第13回 Ado(歌い手) ダイジェスト版

 成田 『文藝春秋』でおしゃべりの連載をはじめることになりまして……。

 米倉 えー、これからですか。新しくできるコーナー?

 成田 はい。新連載。

成田悠輔氏(写真:小田駿一)

 米倉 え、私で大丈夫ですか? 怖いな。怖い。怖いぞ。

 成田 米倉さんが第1号のゲストなんですよ。

 米倉 成田さん、失敗したかもしれません。

 成田 いや、失敗したのはこんなところに出てきちゃった米倉さんの方な気が(笑)。

 米倉 私、失敗しないはずなんですけどね(笑)。

 成田 まだ何も題名さえ決まってない連載で、これから手作りする感じでして……どうか自由にユルく放言を。

 米倉 そこが怖いんですよ。

米倉涼子氏(事務所提供)

 成田 『劇場版ドクターX FINAL』が公開ということで、試写で拝見しました。

 米倉 どうやって観られたんですか? 

 成田 東宝さんからオンライン試写のリンクをいただきまして。

 米倉 そうなのですね。

 成田 家のテレビで韓国海苔をぽりぽり食べながら観てしまいました。劇場にも行かず。

 米倉 もしよかったらチケットをお送りしますので、劇場にも足を運んでもう一回観ていただければ(笑)。

神津病院長のモデルは成田悠輔?

 成田 今度はポップコーン食べながら観ます。あの映画の中で、どこかで聞いたひどいセリフがあった気がしたんですが……「高齢の先生方は集団自決を」とかナントカとか。

 米倉 (笑)。聞かれるかなと思っていました。染谷将太さんが演じる神津病院長ですよね。

 成田 既得権にのらりくらり居座ってる医師たちを切り捨てる役です。あの役はいったい……。

 米倉 今、世の中で若い世代のリーダー的な存在として走っている方々がいますが、その象徴の一人です。『ドクターX』って、時事ネタとか世の中の騒動とか空気を採り入れて、フィクションを作っているので、成田さんがどうというわけではないと思うんですけど。

 成田 すいません、答えにくいこと聞いて。

 米倉 答えにくいです!(笑) 私に聞かないで。私が書いたんじゃないですからね! でも『白い巨塔』ではないですけど、ジェネレーションギャップというか、ジェネレーションチェンジというものを描きたかったと思うんです。一方で大門未知子からすると、そういうジェネレーションチェンジの渦中の若手も、しがらみの中に居座っている老人も根は同じで、そんなやつらはさておき、自分は患者を治すということですよね。

 成田 うんうん。

 米倉 でももし、気分を悪くされているようでしたら、そこらへんは笑って許してほしいなって。

 成田 いや、僕は気分良くも悪くもならない不感症なので大丈夫です。

 米倉 そうなんですか。へえ(笑)。

 成田 浅く見えて深いなと思ったところがありまして。一見すると居座ってる老害への辛辣な描写や言葉が多いじゃないですか。だから世代間対立とか世代交代みたいな話がメインなのかなと思いきや、実は違う。今おっしゃっていたとおり、大門未知子自身はそういうステレオタイプな対立から自由で、患者そのものとか命そのものに正面から向き合う存在として描かれている。世代や年齢みたいな属性を扱っているように見えて、それが本質じゃないって話だと勝手に解釈しました。

 米倉 そのとおりです。これは大門未知子の一匹狼の物語なので。

米倉涼子演じる大門未知子(『劇場版ドクターX』 より) ©2024「劇場版ドクターX」製作委員会

闘病中に言われてイラッとした言葉

 成田 撮影期間はどれぐらいだったんですか?

 米倉 本来だったら2カ月の予定でしたが、私が病気(脳脊髄液減少症)をしてしまいまして。

 成田 撮影中になっちゃったんですか。

 米倉 症状としてはめまいとか全身のだるさがひどくて、まっすぐ歩けないときもあって。それで撮影も2回に分けてトータルで半年ぐらいかかりました。

 成田 もうお体は大丈夫ですか?

 米倉 正直、まだわからないです。でも、こうやってちょっとは動けていますので、去年よりはマシかな。ひどいときは、(うなだれて)もうこんな感じで、とにかく頭を起こすのもしんどかったです。

 成田 仕事の仕方も大きく変わられたんですかね。

 米倉 だいぶ。今まではやりたいものはすぐやれてたし、次はこれをやりたいという目標に向かって段階的にステップを踏んでいく感覚だったんです。でも病気で自分がこの先、どうなっているか想像できないので、確実にお約束できない仕事は引き受けられない。だから、まず自分の身の安全を確保してからお仕事を引き受けざるを得ないので、自分の“夢のかたち”は少し狭まってしまったように思います。

 成田 本当に健康ってほとんどすべてですよね。体が壊れるとほか全部が壊れる。

 米倉 そうですね。そういうときに「病は気から」みたいなことを言われると、「そういうんじゃないの!」とイラッとするときもありました。

 成田 健康な人間って無神経ですもんね。

 米倉 なかなか外見では病気というのが伝わらなくて。流血でもしていれば、周りからもわかりやすいんですけど。

そもそもなんで私がゲストなんですか?

 米倉 私からも1つ、質問いいですか?

 成田 お手やわらかにお願いします。

 米倉 そもそもなんで(ゲストが)私なのかなって。不思議で仕方がなくて。

 成田 この連載は隠れたテーマがありまして。世の中の雰囲気とか同調圧力とかから自由な人に教えを請いたいな、と。

 米倉 なるほど。そういう意味でですね。私ってそんなに自由に見えますか?

 成田 不自由な人ばかりの芸能の世界の方なのに自由そうに見えますね。見えるだけかもですが(笑)。

 米倉 そうですかねえ。

 成田 ブロードウェイまで出張ってミュージカル「CHICAGO」に出られたり、大手事務所から独立してご自身の会社を手作りされたり。発言もちょっとドライでサバサバしてらっしゃることが多いし、いろいろ逸脱されているじゃないですか。

 米倉 確かにやれる機会があるんだったらやってみたいなという思いはあるかも。でも、それはみんなそうなんじゃないですかね。(成田氏に向かって)自由ですか?

 成田 自分は自由というより何もやってないだけの虚無ですね(笑)。事務所もスポンサーも番組も組織も何もまともな責任は背負っていないので。大炎上しようが犯罪を犯そうが自分一人が消えて終わりです。まぁそんな感じでフラフラ気まぐれに生きてたら意外に自由な感じで、なぜか米倉さんとお話ししたりしてる。偶然の巡り合わせには感謝してます。

 米倉 私、初めてなんです。経済学者と呼ばれる方とお話をするのが。経済学者の方がどういうお仕事をされているのか、正直よくわからなくて、「ああ、未知な部分だな」って思って。なので、どうして成田さんと私がつながったのか、まだ不思議なんですよ。

 成田 僕も不思議な感じです。(あたりを見回しながら)こんな謎の古くて暗い会議室(文藝春秋の会議室)に一人ポツンと座って米倉さんとZoomで話しているのは奇妙な夢みたいで面白いです。

 米倉 不思議ですね。

ちゃんとした仕事をやるのが怖い

 成田 自由とか責任とか小難しいことを言ったんですけど、要は根無草の個人プレーだってことなのかもです。人を巻き込んでチームを作って大きな仕事を世に送り出す――そういうちゃんとした仕事をやるのが怖いんです。

 米倉 要は成田さんも一匹狼であるということですね。

 成田 よく言えば一匹狼、悪く言えば臆病者ですね。呼ばれたらチョロッと出ていって、いたずらして帰ってくるみたいな。子どもがピンポンダッシュしてるようなものです。

 米倉 自分から何かを発信して、社会とか経済を「こうしたい」というビジョンをお持ちなんですか。

 成田 自分の場合、100年後の世の中はどうなっているべきか、というすごく遠くのおぼろげなビジョンはあるにはあるんです。政治とか経済っていうと目の前の選挙がどうとか株価がどうとか、新聞みたいにつまらない話になりがちですよね。でもそういう時事の雑音を超えて社会の仕組みはどっちに流れていきそうか、いくべきかという大河の流れを読むみたいなことは考えますね。

 米倉 先ほど責任を背負いたくないと仰っていましたが、長い目で見ると、もっと大きなものを背負って引っ張っていこうとされているわけですよね。

 成田 ものすごくいい言い方をしていただくと、そうかもしれません。

 米倉 すごいですね。

 成田 でも、実際には100年後の世界に責任を背負うことはできないじゃないですか。その時には自分も死んじゃってるので。だから大きなものについて語っているように見えて、本当にそれを背負っているわけではないですよね。どこまでも無責任で気楽です。

なんか厳しく叱られたりするのかな

 成田 けれど米倉さんは、映画でもドラマでも、ものすごくたくさんの人が関わってるものの生身の“看板”になるわけじゃないですか。看板であり人柱。それって重くないですか? 

 米倉 コスパはあまりよくないですね。けれど、じゃあ、自分が他に何をできるかというと、気が付いたら何の取り柄もないんですよ。

 成田 逃げ出そうかな、と思った瞬間ってありますか?

 米倉 あまりないですね。ただ、この3年ぐらいは「病気なんです」ということをいつになったらわかってもらえるんだろうという苦しみと戦っていました。身近な人間にさえ、いくら説明しても、私の今の状態をわかってもらえなくて、「私って“伝える能力”が低いんだなあ」と痛感しました。

 成田 見えないものって伝わらないですよね。人の痛みってわからない。

 米倉 自分が考えている限界と、周りが「米倉ならこれぐらいはできるだろう」と考える限界とかアプローチの仕方がだいぶ違うことを、この病気でかなり学びました。……実は今回、成田さんに「なんか厳しく叱られたりするのかな」と思ってたんです。

 成田 なんで僕がそんな偉そうなキャラなんですか(笑)。

 米倉 『ドクターX』は、年齢も職業も性別も多種多様な人たちが観てくださっているんだろうとは思っていましたが、経済学者が観ていると考えたことは一回もなかったんですよ。

 成田 ニッチすぎるカテゴリーですからね。

 米倉 だから、成田さんというテレビにも出ている経済学者が観ていると思うと、「うわっ、コワッ」と思っちゃいました。いったい何を言われるんだろう、と。

 成田 僕は老害っぽい権力者は軽蔑してるんですが、創作や演技に取り組まれてる皆さんはただただ尊敬しているのでご安心くださいませ。

経済の話をしなくていいんですか?

 成田 映画版を拝見してふと感じたのは、不適切な過激発言も出まくるし、手術シーンもかなり生々しいですよね。「映画ならまだこういう表現ができるんだ」と思ったんです。テレビだと難しいですよね。

 米倉 でも血の量とかは以前と比べると、だいぶ控え目になりましたよ。「これ以上だと放送できないから」って。今はドラマでタバコも吸えなくなっているんで。

 成田 昔はタバコあってのドラマだったのに、時代っていうのは奇妙です。

 米倉 反社会的な人たちの言葉遣いとか、そういう描き方もすごく難しくなってますし。

 成田 映画とテレビで演技を変えたりするものですか?

 米倉 今回はそれはしてないです。キャラクターが同じなので、それはしてない。舞台とテレビだと結構違う部分はありますけど。

 成田 舞台は生声を届かせないといけないですしね。

 米倉 あくまでも私が経験した範囲の話ですけど、とくに発声面は違いますね。あとは、身振り手振りの大きさとか。ただ、今回『ドクターX』のキャストって、結構舞台出身の方が多いんですよね。

 成田 確かに。「メロンです。請求書です」のくだり(病院側に大門未知子のオペ代を後日請求するシーン)とかもちょっと舞台っぽい大げささもありますね。

 米倉 そうですね。『ドクターX』はみんな身振り手振りが大きいほうです。あんまりそこまで考えたことなかったけど。

 ……ところで、成田さん、経済の話をしなくていいんですか?

 成田 メロンと請求書も経済の話かと思ったんですが(笑)。

米倉涼子演じる大門未知子(『劇場版ドクターX』 より) ©2024「劇場版ドクターX」製作委員会

女優転向で収入は5分の1に

 米倉 経済の話とはちょっと違うのかもしれませんが、例えば「今後、私はどうやって生きていけばいいのか」とか「どうやってお金を貯めていけばいいのか」とか「もしこの先も日本に住むなら、どこに住むのがいいのか」とか。成田さんに聞けば、何でも答えてくれそうな気がする。

 成田 そんな庶民みたいなこと、お考えになるんですか?

 米倉 考えます。超庶民だから。

 成田 でも芸能界ほど先の見えないというか、来年どうなってるかわからない仕事はあんまりないじゃないですか。

 米倉 本当にそうですよね。

 成田 その中で気が滅入らないコツみたいなものってありますか?

 米倉 気が滅入る?

 成田 将来の不安を漠然と感じてビクビクしてる人って多いと思うんです。普通に会社勤めしている人でも。芸能人は将来の不安と一心同体で生きているようなものだと思うんですが、どうでしょうか。

 米倉 私は20代前半まではモデルをやっていたんですね。で、芸能界で役者としてやっていくことになったら、収入が4分の1とか5分の1ぐらいまで減ったんです。

 成田 えっ。

 米倉 役者でデビューするときに会社との契約が変わって、それまで歩合制だったのが、給料制になったんです。

 成田 ふむふむ。

 米倉 それでがくんと収入が減って、そのときは本当に将来のことを心配しましたね。だって簡保とか定期預金とか、全部一回解約しましたもん。払えなくなって。

 成田 収入が5分の1になるとわかっていて、あえて役者の道を?

 米倉 そうですね。

 成田 でも5分の1って。

 米倉 結構ビックリしました。その当時、私がいくら稼いでいたかは言いませんけど(笑)。芸能界ってすごいなと思ったのは、当時いた会社からは「次、頑張れば給料が倍になるよ。その次も頑張ればさらに倍になるよ」と言われてたのに、しばらくはそのままなわけです。こんなこと言うと怒られちゃうかもしれないけど。ある意味、夢と希望を与えてもらった(笑)。とにかくやめるつもりはなかったし、3年以内に絶対に主役をとるという目標を掲げてガムシャラにやってました。そうしたら、ちょっとずつ給料も増えていって、貯金したり投資したり、保険にも入りました。

経済学者の「経済事情」

 米倉 成田さんなんかは若い時からものすごく緻密に将来のことを考えて貯蓄を積み上げていたんですよね。

 成田 いやいや、全くですね。

 米倉 本当に? 全くやってないですか?

 成田 今でこそファッションから技術スタートアップまで投資っぽいこともちょこちょこやってますが、若いときは全然。研究者とか学者って、普通は貧乏なんですよ。20代の頃は生活保護すれすれみたいな時期もありましたね。

 米倉 でも、20代でハーバードでしたっけ? 海外のすごい大学に行ってらっしゃいますよね。

 成田 ハーバード……の横にあるMIT(マサチューセッツ工科大学)というところに行ってたんですけど。そこで研究して論文を書いて博士号を取りました。

 米倉 博士号のこういう四角い帽子かぶってましたもんね。

 成田 そんな時代もありました(笑)。

 米倉 私、それを成田さんが出演されていた番組で拝見した記憶があって。『アナザースカイ』(日本テレビ系)かな。

 成田 でも経済学者のはずなのに自分の経済には無頓着で。無計画で何も考えてない貧乏生活を長らくしてました。

 米倉 ごめんなさい、今、おいくつなんですか?

 成田 今、38です。だから、それが10年、15年前ぐらい。

 米倉 どのぐらいお金持ってるの?

 成田 (笑)。20代はその日暮らしでしたね。でも不安はそんななかったですね。何も考えてなかったので(笑)。考えて見通すから不安になるわけですよね。客観的には不安定でも何かを遮二無二やっていれば気にならない気もするんですよ。なので何も考えずただただ突き進むというのが、実は正解なのかもしれません。

 米倉 私もそれは共感できる気がします。私は私の生き方としてそういう感じでした。

普通のサラリーマンの娘なので

 成田 給料が5分の1になっても役者の道へ進まれたときに思い描いていた未来を、実現できたという手ごたえはありますか。

 米倉 いや、当時は何も想像もできてなかったので。どうなったら自分の夢を叶えたことになるのかというビジョンすら、正直なかったかもしれないです。

 一方で30代半ばぐらいまでは、将来に対する不安が明らかにあったので、自分でちょっとずつ(お金を)貯めて、私的年金が下りるようにしてあったんですね。自分が売れるかどうかわからないとずっと思っていたので、仕事が来ない状態になっても、とにかく親に迷惑をかけないようにはしておきたかった。あとは自分が頑張ればいいという感覚ですね。

 成田 堅実すぎますね(笑)。

 米倉 貧乏性なんですよ。

 成田 パブリックイメージの真逆じゃないですか(笑)。

 米倉 普通のサラリーマンの娘なので。だから、役者になって一攫千金とか、夢を叶えるぞとか、そういうことでもないんです。自分にできることは何なのかを選んだら、これしかないのかなという感覚なんですよね。

 成田 はっきりした夢とか計画があったというよりは……。

 米倉 その場しのぎ。

 成田 その場の可能性とか好奇心が働く方向へ行く感じですか?

 米倉 そうですね。好奇心。いい匂いのする方、楽しそうな匂いのする方に行きたいな、というのはありました。

 成田 その結果、ものすごく売れて世の中に共感されまくってしまいましたね。

 米倉 正直、本当にそうなのか、私自身はわかってないですね。

 成田 だって大門未知子は日本一有名なお医者さんじゃないですか。こうなったのは努力でしょうか、運でしょうか。

 米倉 それはキャストとスタッフ皆の努力の結晶です。私は25歳で(役者)デビューしてから3年以内に連ドラの主役をとると誓って、本当に3年目に主役をとれたんです。それからずっと主役をいただき続けて、それは本当にラッキーなことだと思うんですけど。それでも、世の中に自分の名前が届くまでに、相当時間がかかっていると思います。気がついたらもうシワだらけになってたっていう感じですよ(笑)。

 成田 米倉さんがシワだらけだったら、残りの人類はミイラですよ。 

 米倉 そんなことないですよ。今日、直接お目にかからなくてよかったです(笑)。

『劇場版ドクターX』 には豪華メンバーが集結 ©2024「劇場版ドクターX」製作委員会

役者の仕事における「努力の基準」とは?

 成田 さらにシワが増えちゃいそうな難しい質問してもいいですか。演技とか芝居って、出来を数値で測れるものじゃないですよね。良くなっているとか悪くなっているとか、はっきり物差しがあるわけじゃない。そういうフワフワしたものを作り上げるときって、どうやって準備すればいいんでしょうか。これくらいの時間なり回数をかけると決めるのか、自分の中で感覚的にしっくりくる瞬間までやるのか。どこまで努力すべきか、ご自分の中で基準はありますか?

 米倉 すごく難しい質問ですね。個人的には「やれるところまでやる」、これは当然のことなんですけど。私が元いた大手芸能プロダクションは、会社をあげて“米倉涼子というタレントを有名にするぞ”というシステムになっていて、私はその中心で本当にアリのように働きました。デビューしてから主役をとるまでの3年間はほとんど寝る時間もなかったです。

 成田 今だったら訴えたら勝てそうですね。当時の芸能界って労働基準法もコンプラも何もない感じですよね。

 米倉 なかったです。最初の頃は「倒れたら、おめでとうって言ってやる」って言われましたもん(笑)。

 だから、ドラマを朝の6時から夜11時ぐらいまで撮って、その後にCMを撮りに行って、家に帰ってシャワーを浴びたら、またドラマの現場に行く――みたいなことを毎日やってました。

 成田 昭和のど根性ガエル(笑)。

 米倉 だから、私、根性はあります。気合と根性でずっと生きてきてたと思うんですよね。病気をするまでは。気合と根性と勇気だけで生きてきました。

 成田 気合と根性で自分が納得できるまでやり切る、と。

 米倉 そうですね。どこまで納得できるかわからないけど。気合と根性と勇気、そして反省で生きてきた感じ。

 成田 今や気合と根性は違法って世の中になっちゃったじゃないですか。

 米倉 そうですね。

 成田 いいことだと思いますか?

 米倉 世の中がどうかはわかりませんが、私自身は気合と根性で頑張ってきてよかったな、と思います。おかげで自分はどこまでやれるのかというリミットを知れたし。

 無駄にダラダラする時間があるよりは、頑張ってきてよかったなとは思ってます。だって、毎日年取っちゃうじゃないですか。ゆるゆるに生きてても。まぁ、そういうところが私は古いんだと思います。「超昭和脳」ですね。

 成田 どストレートに昭和脳な話がまさか米倉さんから(笑)。意外で嬉しいです。

 米倉 本当ですか。

成田さん、運動してます?

 米倉 私は逆に成田さんの生き方を知りたいです。体育会系とは別のところで生きてこられた感じですか。

 成田 自分は真逆ですかね。体力のなさには自信があるんです。

 米倉 (笑)。成田さん、運動してます?

 成田 してなすぎて死の気配を感じたので、最近ちょこっとやってます。3分で息切れして魚の干物のようにダウンしてます。

 米倉 そうなんですね。

 成田 運動も努力も競争も苦手です。ちょっと頑張るとすぐお腹を壊したりする弱い人間で。

 米倉 でも、外国人の中で頑張って努力をしたから博士号を取れたんじゃないんですか。

 成田 努力もなくはないですが、たまたま生まれながら持ってた能力が大きいと思いますね。たまたま骨格や運動神経に恵まれた人がスポーツ選手になるのと同じで。

 米倉 海外では差別もあったんじゃないですか?

 成田 まぁ生活でも仕事でもありますよね。でもちょっとした差別くらいはいい経験ですし。戦うという感じもなく。私たちには日本といういい国があるじゃないですか。

 米倉 戻ればいいや、と?

 成田 そうですね。与えられたゲームのルールで人と徹底的に戦うのは好きでもないし得意でもなく。興味と巡り合わせの赴くままいろんなことをつまみ食いしてどこにたどり着くか。それがどう評価されるかは人に任せておけばいいかなと、気楽に生きてます。研究者とか大学教授の道を突き詰めたいという願望もないですし、逆に芸能人っぽく人気や風格を求めるみたいなのもなくて。流れに任せて受け身で、さっき暗号みたいな論文を書いていたかと思ったら、今はこうして米倉さんと話しているみたいな、不思議な組み合わせを生きていきたい。漂う軟弱クラゲみたいに。

経済学者の「メインの仕事」

 米倉 私にとって、成田悠輔さんって、いつの間にかテレビでいろんな発言をされるようになっていた人という印象なんですけど、最初のきっかけは何だったんですか。

 成田 一番最初はテレビ朝日の『報道ステーション』に出てくれと言われて、興味半分で見物に行ってみたんです。

 米倉 それが何年前ですか?

 成田 それが2021年なんで、3年前ぐらいですかね。

 米倉 そんなに最近の話ですか?

 成田 はい。

 米倉 それまでは何をされてたんですか? 失礼ですが(笑)。

 成田 それまでは、というか今もですが(笑)、大学で授業したり、企業や自治体と共同研究したり、論文書いたり。ちっちゃな会社もやってて、人前に出るようになったのはこの3年です。

 米倉 ちなみにメインの仕事っていうのは? コンサルティングとはまたちょっと違うんですか? 

 成田 コンサルティングっぽいこともちょっとはやりますが、メインもサブもわからなくなってて(笑)。例をあげると、たとえば米倉さんは学校って行く意味あると思いますか? 

 米倉 学校に行く意味ですか? (考え込んで)ある程度、必要かしら……集団行動とか常識を学ぶとか……ただ私の場合、算数とか理科とかは全然役に立ってないですけど。何となく国語とかは大事かなと思います。本を読むのは好きなんですけど、読んでいて「あれ、わかってないのかな、私」という場面もあったりするので、もっと学校で勉強しておけばよかったな、って。

 成田 意味あるような気もするし、ないような気もしますよね。じゃあ本当はどっちなのかデータを使って調べようみたいなのが研究っぽい仕事です。有名な学校に行って学歴が高いと将来の収入は上がるのかとか。人前に出てないときは、地味な分析や開発をやってます。

なにかの罠なら、やめてくださいね

 米倉 だとすると、聞きたいことがたくさんあるかも。

 成田 ほんとですか。

 米倉 お酒はお飲みになるんですか?

 成田 聞きたいことがそれですか(笑)。アホみたいに飲みます。

 米倉 アホみたいに(笑)。

 成田 今日も左手が震えてるんですよね。たぶん禁断症状で。さすがに最近は酒量を減らすべく3時間禁酒したりしてます。

 米倉 でも全然太ってないですね。

 成田 米倉さんと比べたら丸々と肥満児です。

 米倉 私、中性脂肪(の数値)が高いんで。

 成田 隠れ肥満ですか(笑)。お酒はお好きですか?

 米倉 好きです。アホみたいに、ではないと思いますけど。

 成田 どういうお酒が?

 米倉 (吹き出して)そんな質問? 『文藝春秋』さんですよね? 大丈夫なんですか、これ?

 成田 『文藝春秋』とは思えないただの雑談を目指しているんです。

 米倉 なにかの罠なら、やめてくださいね。私、それこそもっと自由を奪われちゃうので。

 成田 じゃあ『文藝春秋』っぽい方角にちょっと軌道修正してみますと、今「もっと自由を奪われる」とおっしゃったじゃないですか。

 米倉 そうですね。昨日もヘンな車に追いかけられましたし。どこの週刊誌かわかりませんが。事故のもとになるのでやめてほしいんですよね。

 成田 実は僕も今日わざわざ文藝春秋社に来たのは、『週刊文春』に火炎瓶でも投げ込んでみようかなと思って……。

 米倉 なるほど(笑)。

自由のない中で幸せに生きる秘訣

 成田 週刊誌に監視されて自由を奪われても幸せに生きる秘訣みたいなものはありますか? 

 米倉 基本、私は発言とか行動とか自分ができる範囲で自由にやっているつもりはあるんですけど。

 ただ、やっぱり人がたくさんいるところに行きたくても気軽には行けないという不便さはありますよね。その結果、社会を知らないな、と思うことはあります。例えば今、渋谷がどう変わっているのか、とかどうやってスマホで電車に乗るのかな、とか。普通の人が当たり前に知っていることを知らないんです。

 成田 それって不思議ですよね。普通の生活を知る機会がないのに普通の人も演じないといけない。

 米倉 そうですよね。役を演じるに当たっての取材とかそういう意味では、確かに難しいなっていうか。でも、そもそも、私たちが普通に街で買い物したり、デートしたりということがしづらい世の中ってどうなんだろう。やっぱり“一部報道”のせいはあるのかな、と思います。

 成田 正義ヅラした週刊誌とかSNSのただの下世話な欲望でプライバシーも何もなく、明日には突然抹殺されるかもしれない。これを変える方法ってあると思いますか? それともこれは人間の性か……。

 米倉 これは逆にお伺いしたいです。どうにか変えてください。(同席していた編集者に向けて)そちらにいらっしゃる方々が。

 成田 令和の『週刊文春』殴り込み事件を起こしますか(笑)。

 米倉 実際にそういうことをやられた芸能界の方も過去にはいらっしゃったりしましたよね。でも、自分で選んだ世界だから仕方がないのかなとも思いますけど。

 成田 10代の頃から1日18時間みたいに働いてこられて、もちろんそれで手に入れられたものも大きい代わりに、代償も大きそうです。役者以外に「こういう人生も生きてみたかったな」と思うことがあったりしますか?

 米倉 一生懸命頑張ってきたから、あれもしたかったなっていうのはもしかしたらないかもしれないです。

 成田 かっこいい。

 米倉 ほんと?(笑)

 成田 珍しくほんとです。

 米倉 ありがとうございます。

大手事務所から独立後のリアル

 成田 逆にこの先これはしたいってありますか?

 米倉 そうですね……ちょっとずつリアルに考えていかないといけないなって思ってます。今までは本当にがむしゃらに頑張ってきて、いろんな作品とかを与えられて、「米倉、次はこれをやるぞ」「次はこれを頑張っていくからな」「米倉、これに行け」「こっちはどうだ」っていう風に生きてきました。

 そうした中で、やっぱり自分のやりたい方向性とか、自分のありたいかたちとか、そういうものを少しでも自分で判断して進んでいきたいなと思って、会社から離れたんですね。

 で、独立したんですけど。でも、それが果たしてよかったのか……全然自由を感じないんですよ。

 成田 独立して個人事務所(Desafío)を作られたのが2020年でしたね。やっぱり大変ですか?

 米倉 来年で6年目になるんですけど、やっぱり大きなプロダクションの中に居たほうが、交渉ごとは有利なのかな、とか。

 ただ私は大きな事務所の中で自分自身の価値を知らないまま生きてきたんです。この先もそれを知らないまま生きていくのは、きっと良くないと思ったんですね。

 例えば『ドクターX』の大門未知子とか、その役柄が自分より先に一人歩きをしていってる感覚があって。自分の本来のポテンシャルと、世間から思われてる「米倉涼子」のかたちにギャップを感じるようになってきた。このままだと、何というか、その世間の考える米倉涼子から抜け出せなくなっちゃうんじゃないかという危機感があって、40すぎて独立したんです。

 そうしたら、今度は会社経営というまったく未知の世界にぶつかって、今、もがいている感じですね。

 成田 自分で会社やるって、ほんと無限に細かいことがあって面倒ですよね。経理でも契約でも。

 米倉 本当に。やっぱり経営は人に任せて、自分は俳優業に専念したいと思うこともあります。でも、今あるかたちも社会勉強なのかなとは思うので。結局、人生の中でどれが的確な選択か、なんてわかんないですよね。

 成田 知りたいですよね。

 米倉 知りたいですね。成田さんみたいな人がデータをもとに「これはこうしたほうがいいですよ」って言ってくれたら、「ああ、そうなんだ」ってすぐそっちのほうに行っちゃいたいですもん。

 成田 22世紀までにはお手伝いできるようにがんばりたいです。でも、その頃にはAIが人生まで占ってるかもしれないですね。

 米倉 AIですか?

 成田 ネットで買い物したり映画やドラマを観たりするときは、何を買って何を観ればいいか教えてくれるようになってるじゃないですか。同じことが人生のあらゆる典型的な局面で起きて、就職でも引越しでも結婚でもAIっぽいものが神託みたいにおすすめの人生行路を踏みならしてくれることも起きそうな気がしますね。いろんな人の人生の選択とその結果のデータはどんどん溜まってるので。昔は占い師とか仲人みたいな人間がそれをやってたわけですけど。その21世紀の機械版です。

成田悠輔氏(写真:小田駿一)

こういう話はよくないですね

 成田 さっき自分の価値を自分で知らないことに違和感があったとおっしゃったじゃないですか。たしかに独立して自分でやれば全部知れるわけですけど、それでかえって苦しいこともあるのかな、と思ったんですが。

 米倉 知ったから何なんだろうというのはありますね。やっぱり、大手事務所にいれば、キャプテン・アメリカのシールドに守られているようなものだと思う。けれど、そうやって守られていることに自分で気付かずに「私はこうなんだ」「俺はこうなんだ」と勘違いしてしまう人も……って、こういう話はよくないですね。

 成田 いやいや、よくない話こそぜひ(笑)。

 米倉 つまり、自分は勘違いはしたくないと思ったんです。実際、独立してみたら、結構扱われ方は変わりましたね。それは本当に。

 成田 どう変わりました?

 米倉 ギャランティー的なこともそうですし。こちらが言うことも自由になるけれど、あちらから言ってくることもシャープになるというか。「Desafíoさんにまだ信頼が置けません」とか「会社として成り立っているのかどうか、まだ実績がないので」とか普通に言われたりしましたね。

 成田 そういうトゲや傷も大事な経験だったんじゃないでしょうか。

 米倉 自分の人生で、ですね。

自由に生きるとはどういうことか

 成田 自由になることで失う別の自由もあるんだなと思って、ちょっと自分のことに照らし合わせてグッときました。

 組織に属すと、そのしがらみばっかり気になるじゃないですか。だけど、そういうしがらみが可能にしてる自由もたくさんある。そういう当たり前のことに、そこから外れてはじめて気づけるわけじゃないですか。

 米倉 そうですね。

 成田 自分も大学という組織にも属しつつ個人でも動いているので、米倉さんが今おっしゃっていたお話は勝手にすごく理解できる気がしました。

 米倉 ちょっと待ってください、今さらなんですけど、今日の趣旨は何でしょう。

 成田 趣旨は、自由に生きるとはどういうことか、です。

 米倉 何かわかりました?

 成田 わかったふりをしてみますと、世の中は対立とか、わかりやすいイシュー、論点みたいなものに溢れてるじゃないですか。それをメディアやSNSは焚きつけたがるし自分も野次馬として参戦したくなっちゃうわけですけど、たぶんそこに答えはない。そういうものにとらわれず自分が無頓着な一匹狼でいることが大事なのかなと思いました。

 米倉 ありがとうございます。だから“若い人はまだ未熟だ”とか“年寄りは出ていけ”とか、そういうことではなくて、やっぱり世代に関係なく尊敬できる人は尊敬できるし、尊敬するべき人は尊敬するべき、と私は考えてますね。社会の中で。

 成田 とりとめもない話をダラダラしてしまいましたが、最後まとまった気がしてきました。

 米倉 ほんとに? 大丈夫?(笑)

 成田 僕はともかく、米倉涼子さんは失敗しないので――。

 米倉 ありがとうございます(笑)。変なこと書かないでくださいね(笑)。

 成田 『週刊文春』はダメだけど月刊の方は大丈夫なはず。もし編集部が変な書き方したら水鉄砲で文藝春秋社を襲撃しますので。

■成田悠輔の聞かれちゃいけない話

第1回 米倉涼子(女優) ダイジェスト版/完全版 今回

第2回 隈研吾(建築家) ダイジェスト版/完全版

第3回 上野千鶴子(社会学者・東京大学名誉教授) ダイジェスト版/完全版 前編・中編・後編 

第4回 横尾忠則 ダイジェスト版/完全版 前編・後編

第5回 野田秀樹(劇作家・演出家) ダイジェスト版/完全版 前編・後編 

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第9回 仲里依紗(俳優) ダイジェスト版/完全版 前編・中編・後編
第10回 椎名林檎 ダイジェスト版/完全版 前編・中編・後編 

第11回 本庶佑(京都大学がん免疫総合研究センター長) ダイジェスト版/完全版 前編・中編・後編

第12回 黒田東彦(前日本銀行総裁) ダイジェスト版/完全版 前編・中編・後編

第13回 Ado(歌い手) ダイジェスト版

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

genre : エンタメ 社会 芸能