日本の音楽を聴く「原体験」が椎名林檎だった

　成田　いつも脱力してて緊張しない人間なんですけど……。

　椎名　そうなんですか？

　編集者　成田さん、今日は緊張されてますね。心配です(笑)。

　椎名　（連載の）バックナンバーを拝見しましたが、緊張なさらないのかと思っていました。いつもすごい巨匠を前に、堂々と斬り込まれていますよね。

　成田　いやいや(笑)。今日は無理だな、と。自分が日本の音楽を聴く原体験が椎名林檎みたいなところがありまして……。

　椎名　えーっ。そんな。

　成田　人生で初めて自分で稼いだお金で行ったライブが。

　椎名　えっ、ライブに来てくださったことがあるんですか？

　成田　はい。最初に見たのが2000年にこっそりやられた「発育ステータス　御起立ジャポン」。

　椎名　えー、あり得ない。もう嫌です、嫌です。それは嫌です。

　成田　やっぱり嫌ですか（笑）。嫌かもなと思ったんですけど、事実は事実なので。

　椎名　メチャクチャ小っちゃいライブハウスで。

　成田　です。LIQUIDROOM（リキッドルーム）がまだ歌舞伎町にあったころで（現在は渋谷区恵比寿に移転）。

　椎名　そうだ。新宿でしたね。そこへいらしたんですか？　当時、おいくつですか？

　成田　14歳くらいだったかと。

　椎名　それは……早熟でいらっしゃるというか。

　成田　たまたまです。その時からずっと聴かせていただいていて。

　椎名　「たまたま」って何だと思って考えちゃった（笑）。不本意ながら、みたいな。

　成田　すいません、緊張で呂律が回ってないだけです（笑）。

　椎名　そうでしたか。よりによってそれは……。

　成田　黒歴史ですか（笑）。

　椎名　かなり黒歴史です。

　成田　でも、僕はあのライブのDVDも好きで。緑のやつ。

　椎名　ヤダ～。

　成田　逆に嬉しくなってきてしまいました（笑）。

　椎名　あれは「後で悔やむようなことを若い時にいっぱいしよう」と思ってやったことの最たるものというか。確か1週間前ぐらいからその演目を作り始める、それまで考えちゃいけないみたいな企画だったんですよね。

　成田　何回かの小っちゃいライブのためだけに曲を作って。

　椎名　そうなんです。4カ所（福岡・広島・神戸・新宿）かな。

素直に「一番誇れること」は？

　成田　逆に黒くない、素直に一番誇れる歴史ってありますか？

　椎名　最近、何か思ったんだけどな、これはプラウドしよう、と。ああ、忘れちゃったな。メモしておかないとダメですね。

　もうちょっと漠としたことでよろしければ、自分が10代の頃からのお客さんのお嬢さんが大きくなって、親子で一緒にライブに来てくださるようになったことは、本当にやっててよかったと思った出来事です。

　成田　2世代、そろそろ3世代になりはじめるかも。

　椎名　それ、すごいですね。うれしいです。

　成田　ご自分の音楽を長く残すとか、長く残るかどうかってやっぱり意識されますか？

　椎名　結果的にそうかもな、とは今、思いました。というのも例えば100年前ぐらいの人が私の音楽を聴いた時に、違和感なく“自分たちの時代の音楽”としてとらえてくれるようなものを書こうと意識することはあって。それは100年後についてもやっぱりちょっと欲があるということかもしれない。でも、考えていないつもりでした。

　成田　歌詞もちょっとアナクロな、時代錯誤っぽい言葉遣いをあえてされますよね。

　椎名　そうですね。なるべく語源に近い用法にしておきたい時はあります。曲によってですが。

　成田　過去に遡ることで、未来が伸びるとか。

　椎名　かもな、って今思いました。それを期待しているのかも。年代不詳というか、後の時代の人に私の音楽を掘り起こしてもらったときに、いつのものだか分からなくしたいと考えていたから。いつの時代のものか、鑑定する人もちょっと迷うみたいな。

ただ単に懐古趣味なんです

　成田　たしかに椎名さんの曲って時代不詳な雰囲気ありますよね。

　椎名　そうしたいところは確かにありますね。

　成田　初期からずっとですよね。

　椎名　最初からわりとそうでした。

　成田　その起源への気持ちって何かきっかけがあったんでしょうか？ 

　椎名　ただ単に懐古趣味なんです。私たちの世代特有の。みんながわりとそうじゃないかな。

　成田　そうなんですか？

　椎名　……でもないか。浜崎あゆみさんとか、そんな感じしないですもんね。違うか。MISIAさんとか。違うか。

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