メール140万通を解析し、ネットワークの詳細が分かった
はじめに 文藝春秋編集部
米富豪ジェフリー・エプスタインと各界要人の関係を明かした捜査資料「エプスタイン文書」の詳細が公開され、世界に衝撃を与えている。その資料にある140万通の電子メールを解析し、米史上最大の性犯罪者の実像に迫ったのが今回の英『エコノミスト』誌のレポートだ。
エプスタインは1953年、ニューヨークに生まれた。両親はユダヤ系移民の家系だ。大学を中退したエプスタインは、名門ダルトン校の教師を務めたのち、投資銀行に入社。その後、独立して資産運用会社を設立し、保有資産10億ドル以上の顧客に特化し、莫大な富を得て、グローバルエリートへのアクセスも可能となった。
長年に渡って未成年の少女たちを性的搾取し、人身売買を行っていたエプスタインのネットワークは、イギリスのメディア王のロバート・マクスウェルの娘で、エプスタインのパートナーだったギレーヌ・マクスウェル(現在服役中)によって維持されていた。マクスウェルはエプスタインを政財界や王室の有力者に紹介する仲介者でもあり、少女たちの調達役だった。
この事件について、最初の公的機関への通報は1996年に行われた。しかし、捜査は開始されなかった。彼が少女への性的虐待で最初に逮捕されたのは2006年だが、司法取引によってわずか13カ月で出所した。再び逮捕されて2019年に拘置所内で自殺するまで、彼のネットワークは継続していたとみられる。
システムを作った理由は
今年1月30日、米国司法省は新たに300万ページ超の捜査資料を公開した。捜査資料を分析するにあたり、最も障壁になっているのが司法省によって行われた「黒塗り」だ。特定の個人の名前や連絡先、やり取りの一部が被害者のプライバシー保護や国家安全保障を理由に隠されている。
エプスタイン事件とファイルの公開はトップエリートに壊滅的な影響をもたらした。マイクロソフトの共同創業者であるビル・ゲイツはエプスタインと複数回面会していた。ゲイツの妻はエプスタインとの交際に嫌悪感を抱き、2021年に正式に離婚したと報じられている。オバマ政権下で法律顧問を務め、投資銀行ゴールドマン・サックスの最高法務責任者だったキャスリン・ルームラーは、エプスタインと1万1300通ものメールを交わしていた。彼女は2月12日、ゴールドマン・サックスの職を事実上更迭された。
2月19日には、英国のアンドルー元王子が「公務上の不正行為」の疑いで逮捕された。英国貿易特使として活動していた際に政府の機密資料をエプスタインに転送していた事実が発覚したためだ。しかし、メールでのやり取りは少なかったため本レポートには登場しない。
エプスタインが、このシステムを作った理由には未だに謎が多い。彼自身が小児性愛者だったと考えられているが、個人の欲求を満たすための仕組みとしてはあまりに巨大だ。これには大きく二つの説がある。一つ目は、恐喝ビジネスだったという説。彼は邸宅の各部屋に隠しカメラを設置していた。相手の弱みを握ることで、自分の社会的保護の盾とし、資金拠出を強要するテコとしても利用していた可能性がある。エプスタインはゲイツとロシア人ブリッジプレイヤーの不倫を掴み、その情報でゲイツを脅迫していた。2月24日にゲイツはゲイツ財団の職員に向けて、不倫の事実を認め、エプスタインとの関係について謝罪した。二つ目は、モサドなど国家レベルの諜報機関のエージェントだったという説。エプスタインはイスラエルの元首相エフード・バラックと極めて親密な関係にあり、バラックはニューヨークのエプスタイン邸に長期間滞在していたことが明らかになっている。
有力者が職を追われる
ほぼ10年にわたり、ジェフリー・エプスタインの生活に関する情報は断片的にしか明らかになっていなかった。しかし昨年11月、アメリカで検察官の捜査資料の公開を義務づける法律が成立したことを受け、その滴(しずく)のようだった情報の流れは一転し、激流となって噴き出した。

1月30日、米司法省は300万ページを超える文書を公開した。この公開により、ニューヨークの大手法律事務所の会長ブラッド・カープ、スロバキアの国家安全保障顧問ミロスラフ・ライチャク、パリの文化施設アラブ世界研究所の所長ジャック・ラングなど複数の有力者が、すでに職を追われており、今後さらに増える可能性が高い。米国議会議員らからの異議申し立てを受け、司法省はこれまで黒塗りにしていた氏名の開示にも動き出している。

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記録はあまりに膨大で、たとえその一部であっても、いまだ誰も読み通せていない。幸い、ソフトウェア技術者のグループがPDFを分析しやすい形式へと変換した。彼らはAIツール「Reducto」を用いて、電子メールを含むファイルを特定し、送信者・受信者・日付・件名・本文を抽出して、それらを「Jmail.world」というウェブサイトに公開した。
このグループは最終的に140万通のメールを処理し、その作業を2月11日に完了した。『エコノミスト』誌は彼らと協力し、表記の揺れや複数のメールアドレスを統合して、各メッセージを固有の個人にひも付ける作業を実施した。同時に、最も頻繁に登場する500人の経歴を調査した。さらに大規模言語モデル(LLM)を用いて各メールのやり取りを分析し、一般読者にとってどの程度不穏・不快な内容かを数値化した「不穏度指数(alarm index)」を作成した。
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