ホンダ三部社長降ろし全内幕

井上 久男 ジャーナリスト

SCOOP!

NEW

ビジネス 経済 企業

「責任を取るべきだ」元経営トップ2人が辞任を要求

 ホンダは5月14日、四竈真人(しかままひと)氏(48)を6月の株主総会に諮る新任取締役候補とする人事案を発表した。四竈氏は現在、研究開発部門の子会社・本田技術研究所で常務執行役員を務める。すでにホンダは2月に人事案を発表していたが、株主総会を目前に控えて、急転直下、若手抜擢を決めたのだ。

 この人事案変更について、同社役員のA氏は、こう打ち明ける。

「4人の社外取締役と三部(みべ)敏宏社長で構成される指名委員会では、早ければ来年4月1日付で、四竈氏を社長に昇格させる方針が固まっているのです」

新取締役候補となった四竃真人氏(ホンダHPより)

 別の役員B氏が続ける。

「人事案を変更した背景には、一部の取締役と社長経験者らが結託して、“三部降ろし”を画策したことがあります。こんなガバナンス無視の行動を許していては、ホンダの将来は危ういと言わざるを得ない」

 “三部降ろし”の詳細は後述するが、異常事態が生じたのは業績が大幅に悪化したからだ。人事案の変更と同時に、ホンダは決算を発表した。2026年3月期決算の最終損益は、前年同期の8358億円の黒字から1兆2597億円も減少して、4239億円の赤字に転落した。最終赤字は上場以来初となる。

 赤字転落の最大要因は、電気自動車(EV)戦略の失敗にある。このEV戦略の失敗と赤字転落が、内紛を巻き起こした。

 2021年、創業者の本田宗一郎氏から数えて9代目社長に就いた三部氏は、こう宣言した。「カーボンニュートラルのために2040年にはホンダが世界で販売する車をすべてEVと燃料電池車(FCV)にする」。そのため、2030年度までに10兆円を投資する大胆な「脱エンジン計画」を打ち出した。

「脱エンジン」を宣言した三部氏は、米オハイオ州にある完成車工場を、ホンダブランドのEV「ゼロ」や、ソニーとのEV合弁会社であるソニー・ホンダモビリティが進める「アフィーラ」生産のハブ拠点にするために7億ドル(約1113億円)の投資を決定。「ゼロ」はホンダのロゴマークまで変えて取り組んだ車で、EV戦略の中核を担うはずだった。さらに同じく米オハイオ州で韓国の電池大手、LGエナジーソリューションと合弁で44億ドル(約7000億円)を投資して、EV向け蓄電池の工場を建設することも決めた。早くも3兆円近い資金をつぎ込んだ。

脱エンジン計画が失敗した三部社長 ©時事通信社

 しかし、EV販売は想定した通りには伸びなかった。ホンダは2026年3月12日、EV戦略を見直し、巨額赤字に陥る業績下方修正を発表した。続けて同月25日には「アフィーラ」の開発・販売を中止すると発表し、法人は残すものの、事実上の合弁解体が決まった。

 こうした戦略の見直しにより、金型や生産ラインなど資産の減損処理を迫られた。さらに協力してくれた部品メーカーへの補償金の支払いが生じることになり、1兆5778億円もの損失を計上。最終赤字に転落したのである。

トランプ政権で逆風が

 三部氏のEV戦略は結果として失敗したが、筆者はすべてが間違いだったとは思わない。それには大きく二つの理由がある。

 まずは、米国ではオバマ、バイデン両大統領時代に脱炭素が大々的に推進されたからだ。三部氏が社長となった2021年に誕生したバイデン政権は、2032年に二酸化炭素の排出量を2026年比で半減させる環境規制導入を打ち出した。規制導入後、米国の新車販売におけるEV比率が60%を超えるとの試算も出た。2025年のEV比率は7.8%と推計されていることから見ても、当時はEV販売の大きな伸びが予想されていたのだ。

 ホンダは2025年に米国で143万台の新車を売った。グローバル販売に占める米国市場比率は約40%。ホンダにとって米国は最大の市場であり、最大の収益源でもある。同じく米国を収益源とするトヨタの比率が24%、日産自動車が29%なので、ホンダは群を抜いて米国依存度が高い。

初回登録は初月300円ですべての記事が読み放題

初回登録は初月300円

月額プラン

初回登録は初月300円・1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

18,000円一括払い・1年更新

1,500円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2026年7月号

genre : ビジネス 経済 企業