元首相、そして五摂家筆頭・近衛家の血を引く者として
60歳を区切りとして政界を引退し、湯河原の閑居に「不東庵」という庵号を定め、晴耕雨読の生活を始めてから28年が過ぎた。以降、心の赴くまま、書画や作陶、障壁画やふすま絵の制作などに取り組んでいる。
昨年には、細川家の菩提寺でもある京都・龍安寺にふすま絵「雲龍図」を奉納した。誕生したばかりの龍が、苦難を乗り越えて知恵を身に付け、老龍になるまでを描いた作品だ。最初は三十二面だったのが、追加を依頼され、最終的に全九十二面となった。
たまに京都に行くと、海外からの訪日観光客から「画家の方ですよね」と話しかけられることがある。私がふすま絵を奉納した古刹で、制作過程を記録した動画を上映しているからのようだ。

こうして政治の世界から距離を置いている身だが、今特別国会での高市早苗首相の振る舞いには、深刻な危機感を抱かずにはいられない。率直に言って、このままでは日本が取り返しのつかないことになるのではないかという危惧を禁じ得ない。評論の積りで言っているのではなく、1人の日本人として、この国は大丈夫なのか不安がよぎるというのが正直なところだ。
本年度予算の成立後、高市氏は、これからは「国論を二分する課題」に取り組むと述べた。実際に議論の俎上に載せられたのは、国家情報会議設置法案、国旗損壊処罰法案、衆議院定数削減法案、皇室典範改正法案、副首都法案などで、国民の賛否を二分する難しい課題というよりは、一方の側がやりたかったテーマというようにしか見えない。いずれも、物価高に苦しむ国民生活とは無縁の、果たして政治がいま取り組まなければならない課題なのか、疑問があるものばかりだ。
しかしそのひとつひとつをよく見ていくと、本当に高市印の法案は国旗損壊処罰法案だけかもしれない。国家情報会議設置法案も高市氏肝いりの法案と言ってよいものの、自民党の安全保障グループ全体が推進した法律と言えよう。皇室典範改正は、よく知られているように麻生太郎副総裁が推進役、衆議院定数削減法案と副首都法案は日本維新の会の政策である。
重要なことは、高市氏が皇室典範改正と維新印の二法案で体力を消耗している事実である。いずれも恩義ある人の推し法案で、見方によっては律義と言えるかもしれないが、国民全体に責任を負うトップリーダーの体力の使い方として、果たして適切なのか。またもし、自分の支持率はそれら全部を受け入れても余裕があると考えていたとするなら、それは甘い判断である。推進役が誰かは別にして、いずれも問題の多い法案で、多数を握ったら一気呵成にやっていいというテーマではない。
多数派には、日本と国民全体のことを考える責任というものがある。自民党が長らく政権を保持してきたのは、それを理解して実践してきたからだが、高市氏が理解できているようには思われない。
皇室典範「だまし討ち」の正体
外交では、多数派というよりリーダー個人の責任がより重くなる。昨年11月の台湾有事に関する失言以降、日中関係は悪化したままだ。国民に多大な損害をもたらしていながら、事態の打開に向けて「日本はいつもオープンだ」と口で言うだけで何もしないのでは、無責任の誹りをまぬかれない。一方で高市氏は、トランプ大統領の横では、はしゃいで飛び跳ねてみせる。米中という2大大国に対する距離感やバランスのとり方に、政治的な計算や戦略の裏付けがあるようには思えない。国際舞台で一国のリーダーが自らの責任の重さを知らずに振舞うことは、国を危うくしかねないことである。
今国会で成立した法案の中で深刻な問題を孕
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